太田忠司『建売秘密基地 中島家』幻冬舎文庫 2001年

 リストラされて,サービス会社を始めた中島八郎は,息子・龍彦とともに,伊呂波城を訪ねる。時代錯誤の城主・麗容斎からの“依頼”は,城と中島家との交換だった。あまりに素っ頓狂な申し出に呆然とする中島親子は,伊呂波城に捕らえられてしまう。ところが彼らを救いに忍者が出現。おまけにテレビから抜け出たような超人までが登場し・・・

 「短編小説は最初の一文が大切」と,宮部みゆきが,なにか応募小説に対するコメントで書いていました。その伝を中長編小説に置き換えれば,やはり「プロローグ」,つまり導入部が,読者の「読む気」や「読むモード」を初期設定させる上で,重要なものでしょう。で,本編のプロローグでは3つのシーンが描かれますが,そのひとつ,日本近くの深海で調査する潜水艇の乗組員がこういうセリフを言います。
 「台詞で状況説明するってのは安易すぎる気もするが,どうせ俺たちはプロローグにしか出ない端役だからな」
 作者は,この一言によって,本作品を読むときの「心構え(?)」を読者に力強く訴えています。つまり,
 「この作品は,真剣に読んではいけない!」
ということです(笑)

 というわけで,『3LDK要塞 山崎家』に続く,昔懐かし特撮番組やアニメ,マンガへのオマージュに満ち満ちたハチャメチャ物語の第2弾です。今回の「御題」は,「忍者もの」と「巨大変身ヒーローもの」といったところでしょう。
 「忍者」といえば,『忍者部隊 月光』(あの,木の枝に飛び乗る際のフィルム逆回しが懐かしい^^;;)や『仮面の忍者 赤影』といった実写から,横山光輝白土三平のマンガやアニメと,かつて「少年」の世界では,まごうことなく人気ヒーローでした。そしてそのあと受けたのが,円谷プロによって生み出されたウルトラ・シリーズなどの「巨大変身ヒーロー」です。
 一方で,伊呂波忍群或葉部党とが,大時代がかった肉弾戦を繰り広げ,その一方で巨大メカが住宅街を蹂躙し,変身ヒーロー−マーヴェラスエイト−が活躍するという本編は,まさに両者をごった煮にした作品といえましょう(両忍群の背後に宇宙人が絡んでいるという設定は,なかなか巧いですね)。ですから,『山崎家』と同様,本編を楽しむ「コツ」は,とにかく次から次へと描かれる「ばかばかしさ」を,なにも考えずに笑うことでしょう(その点,田中芳樹「薬師寺涼子シリーズ」と通じるものがあります)。
 個人的に好きなのは,住宅街での忍者同士一対一のバトル・シーン。忍者マンガであれば,闇夜の荒野で繰り広げられるであろう戦いが,平凡な住宅街で行われるミス・マッチが良いですね。それと主人公の龍彦が,祖父の発明した戦闘機(?)“あげは3号”に乗るシーン。なんだか『マジンガーZ』兜甲児がはじめてマジンガーに乗る場面を連想しちゃいました。もっとも『マジンガーZ』の悲壮感はありませんけどね(笑)

01/10/21読了

go back to "Novel's Room"