太田忠司『3LDK要塞 山崎家』幻冬舎ノベルズ 1997年

 山崎兼智,37歳。食品会社APEフードの係長。妻・朋子34歳。専業主婦。息子・滋,小学5年生。車は5年前の白いカローラ。家のローンはあと20年。そんな「普通」の家庭に現れたひとりの女。クミコ・エリス・ハスターと名のる彼女が,3台の戦車を引き連れて,山崎家に攻撃を仕掛けた! どうやら狙いは兼智らしい。お父さんはいったい何者?

 キャハハハハハ・・・・,特撮やあ,特撮の世界やあ! サンダーバードやあ! ガメラやあ! 円谷プロやあ! ここまでやってしまうと,もう笑うしかないでしょうね。
 『Jの少女たち』を読んだとき,主人公を通じて,作者がほぼ同じ世代なうえに,どうやら似たような世界を愛好していたのだなあ,と思いましたが,この作品で,しみじみと,やっぱりなあ,と再確認してしまいました。

 この物語を楽しむコツは「醒めないこと」です。「ばかばかしい」とか「あるわきゃねえだろ,そんなこと!」といったツッコミは,ゆめゆめ考えてはいけません。かつて「正義の味方」と「悪の秘密結社」が,整然と分かれていた時代。「悪の秘密結社」は,なぜかは知りませんが「世界征服」を目標として,これまたなぜかは知りませんが,日本を,高度成長期を迎えていたとはいえ,けっして今ほど国際社会に大きな影響力を持っていなかった日本を,必ず手始めに攻撃してきます。彼らは「悪の秘密結社」だから「世界征服」を目指し,「世界征服」を目指すからこそ「悪の秘密結社」だったのです。
 そして「正義の味方」もまたみずからの正義を疑うことはありません。なぜなら「悪の秘密結社」を倒すことが正義であり,間違っても「敵にも守るべき家族や生活がある」などとは考えません。そして「悪の秘密結社」はへこたれません。「正義の味方」に何度こらしめられても,毎週,新しい怪人や怪獣を送り込まねばならないのです。「正義の味方」も,そんなけなげな「悪の秘密結社」を,けっしておろそかに扱いません。なぜなら「悪の秘密結社」の存在こそが「正義の味方」の唯一のレゾン・デテールだからです。
 そんな「悪の秘密結社」と「正義の味方」の蜜月時代,あるいは55年体制にたっぷりひたること,けっして夢から醒めないこと,これがこの物語を楽しむための心構えです。

 ところで,タイトルが『3LDK要塞 山崎家』となっているので,てっきり「山崎家」を死守するために,攻防戦が繰り広げられるのかと思いましたが,じつにあっさり破壊されてしまいますねえ。冒頭にわざわざ山崎家の見取り図まで出しているのに・・・。ちょっと「看板に偽りあり」という感じです。でもいいか,おもしろいから。

 それから,喫茶店「ライラック」のマスターって,天本英世ですよねえ,やっぱり。

97/06/12読了

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