日本推理作家協会編『探偵くらぶ(下)浪漫編』カッパノベルズ 1997年

 『奇想編』『本格編』に続くシリーズの最終巻。副題にあるように,犯罪をめぐる動機や心理に重きを置いた作品を集めたもののようです(正直なところ,いまいちピンとこないのですが・・・(^^;;)。12編おさめられたうち,気に入った作品のみコメントします。

朝山蜻一「くびられた隠者」
 隠者のごとき生活を送る男が殺された。その家の家政婦が語った内容は…
 グロテスクな男の趣味に加え,ラストシーンでの,ひとりの男をめぐるふたりの女の修羅場は迫力があります。ただそれにしては,この男,あんまり魅力的ではありませんねぇ。
岡田鯱彦「死の湖畔」
 湖畔の宿を訪れた男と女。仲むつまじい恋人同士に見えるふたりだが…
 オチそのものは見当がつきますが,ホッとさせる1編です。冒頭の伏線もいいです。
椿八郎「くすり指」
 船医の片山は,戦前,上海で起きた「くすり指」をめぐる奇怪な話を“私”に聞かせ…
 運命的な巡り合わせを描いた,一種の“綺譚”でしょう。腕だけつき入れて麻薬を注射するシーンは,退廃的でグロテスク,鬼気迫るものがあります。この作品集では一番楽しめました。
永瀬三吾「時計二重奏」
 “僕”の遠い親戚,六さんが養老院で死んだ。彼が握っていた懐中時計は,思わぬ波紋を呼び…
 真相はあまりにあっけなく単純なものですが,前半の六さんの飄々とした雰囲気と,後半の時計をめぐるあざとい欲望が好対照になっています。
氷川瓏「白い外套の女」
 百貨店で見かけた白い外套の女は玲子にそっくりだった。だが彼女はすでに死んだはず…
 ストレートな怪談です。雪降る中での白い外套の女というイメージは幻想的でいいのですが,最後のオチはちょっといただけません。
宮野叢子「記憶」
 由美は子供の頃から,人を憎んだとき,頭の中が真っ白になり,記憶を失ってしまうことがあり…
 自分が自分でなくなる恐怖,自分でない自分が他人を傷つけてしまうという恐怖。今風に言えばサイコ・サスペンスといったところでしょうか。

97/12/11読了

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