日本推理作家協会編『探偵くらぶ(中)本格編』カッパノベルズ 1997年

 『奇想編』につづく,「探偵小説傑作選1946〜1958」というサブタイトルのついたシリーズの2冊目です。今回は「本格編」ということで,本格モノを集めた作品集のようですが,あまり本格っぽくない作品も含まれています。まあ,本格とはなんぞや,というのは人によって多少違うかもしれませんが。ただ『奇想編』に比べると,いまいち生彩に欠けるように思いました。

飛鳥高「犯罪の場」
 なにやらしちめんどくさい術語がいろいろ出てきますが,トリックが単純すぎるし,途中で見当がついてしまうので,興ざめします。
岩田賛「絢子の幻覚」
 真相はなかなかおもしろいのですが,ふたつのネタを強引に結びつけたような印象が残ります。
海野十三「千早館の迷路」
 暗号らしきものが出てくるので「本格編」に入ったのかもしれませんが,どちらかというと(もしあるならば)「冒険編」「活劇編」に近いような作品です。この作者らしい「機械仕掛けの怪奇趣味」が楽しいです。
岡村雄輔「廻廊を歩く女」」
 戦前の北京を舞台にしたエキゾチシズムあふれる作品で,そういう点では楽しめました。ただ本格ものなら,もう少し伏線をきっちり引いてほしいところです。
川島郁夫「接吻物語」
 もう少し構成を変えれば,おもしろい,あるいは怖い作品になっていたかも。話し手が生きている以上,オチは見当がついてしまいます。
楠田匡介「破小屋」
 最後に明かされる,探偵の謎解きのきっかけはおもしろいですが,伏線が目立ちすぎるので,トリックがわかってしまいます。
島久平「雲の殺人事件」
 ダイイング・メッセージの謎解きがあんまりといえばあんまりです。
千代有三「痴人の宴」
 時代の違いか,ピンとこないところもありましたが,最後に二転三転する結末がいいです。
角田喜久雄「幽霊の足」
 本作品集では,一番本格らしい本格もので,楽しめました。名作の呼び声高い『××××』のトリックに近いものなのでしょうが,真犯人の心理とトリックとが巧く重なり合っていて,おもしろく読めました。
宮原龍雄「凧師(はたし)」
 「凧上げ」のシーンが迫力があります。メイントリックはどれだけ現実味があるのか判断しかねますが,それを取り巻く小トリックが効いてます。それにしても,現在のバルーン大会といい,肥前もんはほんとに「高いところ」が好きなんですねぇ(と,もと佐賀県民はしみじみ思うのでした(笑))。
横溝正史「神楽太夫」
 いわば「本格もの」のパロディでしょうか?

97/10/29読了

go back to "Novel's Room"