ロバート・ブロック『楽しい悪夢 ロバート・ブロック短編集』ハヤカワ文庫 1975年
12編を収録した短編集です。
「子供にはお菓子を」
アンソロジィ『恐怖通信II』(河出文庫)に「キャンディにはキャンディを」という邦題で収録されています。感想文はそちらに。
「ドリーム・メーカーズ」
サイレント時代の終焉とともに“彼ら”が引退した理由は…
この作者お得意の(?)ハリウッド・ネタです。サイレントからトーキーへの転換にともなって,多くの映画人が姿を消したという話は聞いたことがありますが,その「真相」のオカルト的解釈,といった作品でしょうか?
「魔法使いの弟子」
魔術師サディーニに拾われた男は,彼を魔法使いと信じ込むが…
「策士,策におぼれる」というパターンは,サスペンス小説では,常套的なもののひとつですが,それをベースにしながらも,「策士」によって操られる側に視点を置くことで,「どうなるのか?」というミステリ趣向を高めるとともに,グロテスクな物語に仕立て上げています。
「スタインウェイ氏」
“わたし”の恋人は,ピアノをまるで生きているかのように扱い…
アニミズムの伝統のある日本では,「モノに魂が宿る(あるいは生きている)」という発想は,わりとすんなり受け入れられるのでしょうが,アメリカなどでは,そのようにもっていくためには,それなりの「理論武装」が必要なんでしょうね。
「その名に恥じぬ霊」
その男は,死んだ霊と自由に交信できるというが…
最後の一行で苦笑させるショートショート(ちょうどページをめくった直後に,その一行が来ているのがグッド)。ただし笑うためには「教養」が必要です(笑)
「魔女の猫」
アンソロジィ『恐怖と幻想 第3巻』(月刊ペン社)に「猫の影」という邦題で収録。感想文はそちらに。
「めがね」
20ドルで買い取った古道具から,男はそのメガネを見つけ…
「かけると相手の思考を読み取れるメガネ」を素材としたオムニバスです。わりと「ありがち」な素材ですが,最後の幕の引き方が巧いですね。たしかに,他人の心より,こちらの方が怖いかも,と思ってしまうわたしって…
「ハンガリアン・ラプソディ」
その湖畔に,ハンガリーからの亡命者が来たことから…
ネットで調べてみたら,初出は1958年。「共産主義国からは,誰でも逃げだしたくなる」というところが,いかにもアメリカですね(笑)
「飢える家」
若夫婦が引っ越してきた家には,“それ”がいた…
オーソドクスな「幽霊屋敷譚」ではありますが,「それ」の正体,というか,由来の造形が,不気味でよいです。幽霊譚によくある「鏡に映る」という状況を上手に理由付けしています。
「眠れる美女」
霧の夜,男は“古き良きニューオーリンズ”に出会うが…
日本だと,「牡丹灯籠」を思い出させるような内容です。「女」が,主人公の財布をすべて盗んだのは,もしかすると,自分の存在−過去のニューオーリンズに置き忘れられた自分の存在を知って欲しかったのではないか,などと思いました。
「悪魔の落し子」
若者たちが犯罪に走る,その真の理由は…
古典的な素材と現代的なモチーフの結合は,この作者らしい着眼点と言えましょう。訳者は「あとがき」で,作者の視線の保守性を指摘していますが,昨今の日本の状況を考えると,それだけでは済まないような気にさせられるストーリィです。
「頭上の侏儒」
“おれ”が人を殺したのは,頭上にいる“イノック”に命令されたからなんだ…
今風にいうと「電波」というヤツですね。もちろん,そこにもうひとひねりが加わっているのですが,その際に,主人公を「理解」しているように装う地方検事を登場させ,スムーズに話を転がしていくところは,やはり巧いです。
04/12/26読了
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