デュアル文庫編集部編『少年の時間』徳間デュアル文庫 2001年

 「ビビる暇があったら楽しめ」(本書 菅浩江「夜を駆けるドギー」より)

 「Novel21」とサブ・タイトルのついた書き下ろしアンソロジィです。もう1冊,『少女の空間』というのが出ている,ジャンルを超えた「ハイブリッド・エンタテインメント・アンソロジー」だそうです。巻末に山田正紀&西澤保彦(&大森望)の対談「リアルの現在 ハイブリッドの意義と強度【前編】)」が掲載されており,山田正紀が「大風呂敷」を広げています(笑)

上遠野浩平「鉄仮面をめぐる論議」
 触るものすべてを結晶化させてしまう“鉄仮面”は,「虚空牙」に対する,人類最後の兵器だった…
 「神話」の「語り口」というのは,本来,こういった軽快で楽しいものだったのかもしれません。主人公の正体をめぐる巧みな「謎解き」に,「少年と少女との淡い恋」,そしてその破局による「少年から男への変貌」という古典的とも言えるモチーフを上手に織り込んでいます。
菅浩江「夜を駆けるドギー」
 みずからを“死体”と呼ぶ少年にとって,インターネットとマシン・ペット“カズキチ”だけが唯一の慰めだった…
 この作家さんの作品は,短編を何作か読んだだけなのですが,彼女の描く幻想味あふれる残酷さが好きです。この作品は,それらとはちょっとテイストが違っており,それはもしかすると,主人公が少年だからなのかもしれません。女性作家は女性キャラクタにより辛辣である傾向があるのでしょうか? それとも単に掲載誌のコンセプトの違いによるのでしょうか?
平野夢明「テロルの創世」
 学校に来た軍人は「君たちは,ある人のために生きている」と話し…
 大長編のオープニング・シーンのような作品です。舞台を「昭和30年代の日本」に設定することで,進行するストーリィとのずれ,ギャップを生み出し,ミステリアスな雰囲気を醸し出しています。主人公たちの演ずる『ピノッキオ』をもう少し挿入すると,メイン・モチーフをより鮮明に打ち出せたのではないかと思います(主人公の淡い恋心なども絡めながら…)。
杉本蓮「蓼喰う虫」
 航行不能に陥った宇宙船がたどり着いたのは,不可思議な星だった…
 「願いがなんでもかなう星」というSF的な設定を施していますが,この作品で描こうとしているのは,むしろ少年期の心の揺れ動きなのでしょう。哀しくせつないエンディング・・・と思わせておいて,最後に「ぞくり」とさせるところはおもしろいです。ただ「こう願う」ことによって,こういう結末に至る必然性が,ちょっと弱いようにも思います。
西澤保彦「ぼくが彼女にしたこと」
 ぼくの父は殺人者だ。しかし,最初に父を殺そうとしたのは,ぼくなのだ…
 この作者の作品を読み慣れているものにとっては,「例によって自己分析的な文章が多いなぁ」と苦笑してしまいますが,ファンタジィ色,SF色が強い,このようなアンソロジィでは,やっぱり浮いているように感じてしまいます(笑) 単純な事件の背後に隠された深い意図というミステリの常道を行く作品。(これまた例によって^^;;)妄想的な推理ではありますが,それを物証することによって,きちんと着地させているところはいいですね。
山田正紀「ゼリービーンズの日々」
 ゴールデンブラウンのゼリービーンズをつまみ上げた日,それはドラゴンを倒す日なのだ…
 ファンタジィ,(社会不安を描いた)近未来SF,(この作者お得意の)ユング派心理学,冒険小説テイスト,そして「少年と少女の淡い恋」と,このアンソロジィのコンセプトである「ハイブリッド性」を意図的に作品とも見受けられますが,それとともに『宝石泥棒』などを描いた,この作者が以前から持っていたスタイルを踏襲した作品とも言えます。巻末の対談で,この作者は自分を「ジャンル作家」と規定していますが,けっしてそんなことはないように思います。

01/02/08読了

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