デュアル文庫編集部編『少女の空間』徳間デュアル文庫 2001年

 『少年の時間』と対をなす「ハイブリッド・エンタテインメント・アンソロジー」。6編を収録しています。

小林泰三「独裁者の掟」
 宇宙空間を疾駆するふたつの宇宙船。両者の間には数百年におよぶ戦争が繰り返され…
 いかにもSFSFした設定−宇宙船同士の抗争,独裁者による徹底的なまでの圧政など−に加え,頻出する,しちめんどくさい(笑)SF用語。その間に挿入される少女カリヤと少年チチルとの交流を描いたエピソード。「SFだなぁ・・・」などと思っていたら,ラストで思わぬミステリ的ツイスト。やられた!
青山和「死人魚」
 山中で迷った“ぼく”は,奇妙な漁村にたどり着き…
 民話で言うところの「山中異界譚」を思わせるシチュエーションと展開。その果てに明らかにされる意外な「真相」と,その背後に隠されていた少女の哀しみとせつなさ。そして,それらを救おうとするかのようなやさしさに満ちたエンディングがよいですね。
篠田真由美「セラフィーナ」
 ローマにある小さな骨董屋。“私”はそこで1枚の少女を描いた絵を見つけ
 この作者お得意の「イタリアもの」です。オーソドクスな「絵画怪談」と言ってしまえばそれまでですが,主人公の女性の鬱屈したリアルな心情と共鳴させることで,モダン・ホラー的なテイストを与えています。「少女」と「聖母」という相異なる,しかしともに女性の属性とされるものは,女性にとっては,フィクションでしかないのかもしれません。
大塚英志(原作:白倉由美)「彼女の地平線」
 “ぼく”は,高校生の頃,尻尾のある女の子と半年暮らしたことがあるんだ
 1980年代初頭頃の高校生活って,たしかに,この作品で描かれるように「のんびり」していたのかもしれませんね(渦中にいると,それを感じ取れるほど余裕はありませんでしたが^^;;)。内容的には…よくわかりません(^^ゞ
二階堂黎人「アンドロイド殺し」
 火星植民都市で起こった「殺アンドロイド事件」の真相は…
 ミステリで使い回されているネタを,SF的ガジェットで「衣装替え」した作品,といってしまうのは,ミステリ者の悪癖なんでしょうね。しかし,主人公の年齢を,SF的設定を施すことで,上手にミス・リードしてますね。
梶尾真治「朋恵の夢想時間(ユークロニー)」
 “心”を過去に飛ばすタイム・マシン「K・C」に乗り込んだ朋恵は…
 『クロノス・ジョウンターの伝説』の姉妹編のような作品です。「K・C」がなくても十分お話として成り立つように思われるので,『伝説』ほどSF的設定が生かされていないようなところがありますね。「粗編みのセーターにジーンズ,ナップザックを持った髪の長い少女」のフィギュアというのは,作者のサービス精神でしょう(同じ文庫だし(笑))。

01/03/31読了

go back to "Novel's Room"