エド・ゴーマン編『死の飛行』扶桑社ミステリー 1997年
「おれたちがこの社会を創ったのだ,この社会のすべてに責任があるのだ。しかし,だれひとりとして責任を取ろうとしない」(本書 ジョー・ゴアズ「サン・クエンティンでキック」より)
『自由への一撃』と同時に刊行された「現代ミステリーの至宝」の第2集。13編を収録しています。なんでこんなに読むのに間が空いたかというと,今回の引っ越し(2003年5月)の際に「再発見」されたからです(笑)
シャーロット・マクラウド「マーティンのように」
骨折して入院した主婦は,夫と子どもの面倒を姉に託すが…
優秀な姉とつねに引き比べられる妹,骨折で身動きできない退屈さ,昼のメロドラマが放映する不倫の話…「見慣れたもの」をいくつも重ね合わせることで,主人公の焦燥をじりじりと盛り上げる展開は,さすが手慣れたものです。
サラ・パレッキー「スキン・ディープ」
この作者の短編集『ヴィク・ストーリーズ』所収の作品。感想文はそちらに。
ジョーン・ヘス「死体のお出迎え」
出張から戻った“わたし”を待っていたのは,密室状況での殺人死体だった…
リアリティを重視するアメリカ・ミステリにおける密室では,やはりこのあたりが無難な着地点なのでしょう。また「なぜ密室か?」というところもリーズナブルなものです。
フェイ・ケラーマン「しつけのいい犬」
ただでさえ嫌われ者のコンロイが,あろうことか,獰猛な犬を飼い始め…
ロアルド・ダールを連想させる,ブラックで,アイロニカルなストーリィです。前半,コンロイをじつに憎々しげに描いているところが,ラストの皮肉をよりいっそう効果的にしています。本集中,一番楽しめました。
マーガレット・マロン「不可能な銃撃」
ロッカーに収められているはずの警官の銃で,男が殺された…
警察を舞台にしながら,科学捜査の介入をたくみに回避しているところが,設定のうまさですね。また伏線の張り方も巧妙です。
エド・マクベイン「死の飛行」
仕掛けられた爆弾で墜落した飛行機。私立探偵デイヴィスは,その原因究明を依頼され…
派手な事件,探偵に迫る謎の脅迫者,事件関係者(美人)とのラヴ・ロマンス,クライマクスでのスリル,と,ヒッチコック映画を思わせる「通俗ミステリ」の「ツボ」をしっかりと押さえた作品ですね。
ジョー・ゴアズ「サン・クエンティンでキック」
刺激(キック)を求めて“おれ”たちは,死刑執行を見物に行くが…
現代における「死の隠蔽」は,「死のポルノグラフィ化(隠されているから見たいという欲望の肥大化)」と呼ばれますが,そのポルノグラフィ化を突き破るものとは,まさに実際の「死」そして「死体」が持つ重みなのでしょう。ビター・テイストのハードボイルドあるいはクライム・ストーリィを得意とする作家さんならではの,味わい深い佳品です。
エドワード・ブライアント「彼女のお出かけ」
雪の夜,買い物に出かけた主婦デラは,思わぬトラブルに巻き込まれ…
平凡な主婦と,4人の不良少年たちの死闘を描いたストレートなサスペンス。冒頭に描かれる主人公のストレスおよび双子の子どもたちへの愛情が,メインとなる戦いのシーンにおいて,上手に活かされています。ラストも「どきり」としながらも痛快です。
クラーク・ハワード「ホーン・マン」
服役を終えて16年ぶりに故郷に帰ってきたラッパ吹き(ホーン・マン)は…
この物語には「描かれざる犯罪」があったのか? ひとりの男,ホーン・マンの人生を台無しにしてしまった女への「復讐」とも言える,男たちの犯罪はあったのか? そう問われても,男たちは,ただ肩をすくめるだけでしょう。
F・ポール・ウィルソン「顔」
続発する猟奇犯罪に,ハリソン警部は,理由不明の引っかかりを覚え…
嗚呼! なんという無惨な物語! ハリウッド映画的エンディングを拒絶するような幕の引き方に,思わず言葉が詰まってしまいます。しかし,この「カタルシスの拒絶」に,ミステリ作家としてより,ホラー作家としてのこの作者の資質が現れているのかもしれません。
ジョン・ラッツ「稲妻に乗れ」
死刑が確定した恋人を救ってくれと依頼された私立探偵は…
少々あざとい感じのする依頼内容に,「いまどき?」といった印象を持ったのですが,ラストは渋く決めていて,やはり現代ミステリだなと思いました。
ナンシー・ピカード「いつもこわくて」
田舎に引っ越してきたジェインは,被害妄想にとらわれ…
どうも焦点がよく把握できない作品です。ユーモラスな軽快感を狙っているのか? それにしては,前半部のジェインとシシィの会話が重い感じもしますし…正直,ちょっと「?」です。
03/08/24読了
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