法月綸太郎『パズル崩壊』講談社ノベルズ 1998年

 「WHODUNIT SURVIVAL 1992-1995」という,よくわからないサブ・タイトルのついた,この作者2作目の短編集です。1編をのぞいて,「法月綸太郎」は出てきません。
 それぞれにいろいろな試みがなされ,またテイストの異なる作品を集めています。またタイトルにあるように,しだいに「パズルもの」が「崩壊」していく,という順番に意識的に配列されています。「スクラップ・アンド・ビルド」という言葉は,よく聞きますが,はたしてこの作品集が,作者にとっての「ターニング・ポイント」になるのか,「デッド・エンド」になるのか,いまのことろそれはなんともいえないでしょう。
 でも,「崩壊」をテーマとしながらも,かつて『TRIPPER』1995年冬季号に掲載された,「物語」としても完全に「崩壊」している「禁じられた遊び」はさすがに加えなかったのですね。

「重ねて二つ」
 ホテルの一室で,女性の上半身と男性の下半身が,さながらオブジェのごとくつぎ合わされた死体が発見された…
 最初に収録されたアンソロジィ『奇想の復活』の性格でしょうか,「奇想」が先行した「ワン・アイディア・ミステリ」といった感じです。トリックは見当つきましたし,あまり説得力がありません。
「懐中電灯」
 現金を強奪し,仲間を殺した男は,完全に警察の目から逃れられたと思ったが…
 『刑事コロンボ』あるいは『古畑任三郎』を彷彿させる作品。すっきりとまとまっていて,本作品集中では,一番読みやすかったです。伏線もきれいです。
「黒のマリア」
 三重の密室で発見されたふたつの死体。それは絵画の呪いなのか…
 「呪われた絵」なんて,この作者らしくないな,と思っていたら,「原案→ドラマ化→ノベライゼイション」という特殊なケースなのですね。「呪い」の部分を取っ払うと,ラストは逆にこの作者らしいように思います。
「トランスミッション」
 アンソロジィ『誘拐』収録作品です。感想はこちら
「シャドウ・プレイ」
 深夜,友人のミステリ作家から電話がかかり…
 トリックそのものよりも,それをどう提示するか,というところでひねった作品です。でも「肉付けはまだできていない」というセリフに,作者自身の「心の叫び」を読みとってしまうのは,勘ぐりすぎでしょうか?
「ロス・マクドナルドは黄色い部屋の夢を見るか?」
 アンソロジィ『密室』収録作品です。感想はこちら
「カット・アウト」
 かつての盟友・桐生の訃報に接した画家・篠田は…
 画家であろうと,作家であろうと,なにかを創造する人間の苦悩や焦慮を描いた作品は,その苦悩や焦慮が,人間としてのコモンセンスに響き合うものがあってこそ,共感というものが生まれるのではないかと思います。またそれがキャラクタの生き様として描写されてこそ,「物語」として成り立つのだと思います。良かれ悪しかれ理知的な作家であるこの作者の描く,この作品での「芸術家としての苦悩」は,言葉の上では「人間としての苦悩」に置き換えられているとはいえ,(前衛芸術という素材の問題もあるのかもしれませんが)あまりに抽象的,解説的で,正直,ピンときません。
「・・・GALLONS OF RUBBING ALCHOL FLOW THROUGH THE STRIP」
 まぁ,いろいろ「理由」はあるのでしょうが,だからといって「ボーナス・トラック」などという言い方はあんまりでしょう・・・。

98/09/06読了

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