西澤保彦『七回死んだ男』講談社文庫 1998年

 “僕”大庭久太郎は,同じ日を9回繰り返してしまう“反復落とし穴”という,なんとも奇妙な“体質”の持ち主。そして恒例となっている祖父への年始参りの日,“僕”はその落とし穴に落ち込んだのだが,なんとその日に祖父が何者かに殺されてしまった! 繰り返される“今日”の間に,“僕”はなんとか祖父殺害を回避しようとするのだが・・・

 いまや「SF本格パズラ」としてのブランドを確立したこの作者の,「最初の一歩」とも呼べる作品です(もっとも前作『完全無欠の名探偵』で,すでに「超能力」を導入してはいますが・・・)。

 本作でのSF的設定は,「反復落とし穴」,同じ日を9回繰り返すことができる“体質”です(“僕”が起こしたいときに起こせるものではない,という点で,“能力”ではなく“体質”とされます)。その「落とし穴」で起きた殺人事件,主人公は,残りの“日数”で,なんとかそれを回避しようと四苦八苦します。相変わらず,キャラクタがグロテスクなまでにデフォルメされていて(そのくせヒロインは妙に美化されていて),読んでいて,少々辟易するところはありますが,この作品では設定が巧いため,それほどマイナス要因にはなりませんでした。
 そう,設定ならびに“ルール”は比較的シンプルではありますが,それらによって多様なヴァラエティに富むシチュエーションが生じるため,ストーリィに動きがあって飽きが来ません。また主人公があの手この手で殺人を回避しようとするにも関わらず,思わぬ“伏兵”の出現で思惑が裏切られ,事件が起こってしまうという展開は,「はたして主人公は事件を阻止できるのか?」というサスペンスを盛り上げています。もちろんそれとともに「真相はなにか?」という謎が,常時問われ,緊張感が維持されます。

 そしてラストにいたって,すべての真相が明らかにされるわけですが,それは,読んでいる途中,いくつかの伏線をもとに,ひとつの「可能性」として頭に浮かんだものではありました。しかしそう考えると,どうしても出現する矛盾が説明できず,確信できませんでした。ですから,ちょっとアンフェアかな? というようなところがあるものの,その「可能性」が無理なく説明される最後の謎解きは,思わず「をを!」と膝を打つような痛快感を感じることができました。

 これまで,西澤作品の個人的なベストは『人格転移の殺人』でしたが,設定の巧みさ,スピード感のあるストーリィ展開,ラストの痛快感と(比較的)後味のいいエンディングなど,トータルに見ると,こちらの方がわたし好みですね。

98/06/07読了

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