西澤保彦『ナイフが町に降ってくる』ノン・ノベルズ 1998年

 目の前に謎が提示されると時間の流れを止めてしまうという力を持った末統一郎。それに巻き込まれた女子高生・岡田真奈。そして彼らの眼前でつぎつぎと起こる不可解な刺殺未遂事件。すべてが止まってしまった世界でふたりは推理を重ねる。時間をふたたび流れさせるために・・・

 この作者は,「登場するキャラクタ,とくに女性キャラの性格はできるだけグロテスクに書くべし」という信念でもお持ちなのでしょうか? どうもこの作者の作品の登場人物たちの性格には馴染めないところがあります。いや,どこでも見かける性格なのかもしれませんが,その描き方がなんとも極端というか,誇張されています。この作品のメイン・キャラクタ岡田真奈にしても,読んでいる途中,「このガキ,どついたろか!」(<下品!)と何回思ったことでしょうか・・・(考えてみれば,「可愛い」ともっぱら評判(?)の『幻惑密室』『実況中死』の主人公神麻嗣子にしても,ベクトルこそ違え,極端化・誇張化というキャラクタ造形は共通しますね)。なんだか,役者がやたらと怒鳴ったり,わめいたり,泣き叫んだりする昨今のテレビドラマを見ているようで,正直,鼻白んでしまいます。

 さてそれはともかく,今回の設定は「時間が止まった世界」であります。メインの謎は,その中で起こる「連続刺殺未遂事件」で,その数じつに13人! それを解決しないと主人公たちは「時間の止まった世界」から脱出できない,という設定になっています(正確には「解決」ではなく,統一郎が「納得」することですが・・・)。おまけに,それぞれの被害者には,つぎの被害者を示唆するような手掛かり=“バトン”が残されているという,ミステリとしてはなかなか魅力的なシチュエーションです。
 で,統一郎と真奈は,その謎を解こうとさまざまな推理を繰り広げるのですが,正直,真相そのものは最初の半分くらいでわかってしまいます。ですから,ふたりの推理は,ミス・リーディングの臭いがプンプンしていて,主人公が「なんで,気づかないんだ」という思いが強く,展開される推理を読み進めるのがちょっと辛いところがあります。
 この作者お得意の破天荒な設定のミステリではありますが,設定そのものが単純に過ぎる感があり,ちょっと視点を変えればすぐ底が割れてしまうという点で,今回の設定はあまり成功していないのではないかと思います。

98/12/23読了

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