霞流一『ミステリークラブ』角川書店 1998年

 ゴジラの人形探しを依頼された“俺”紅門福助は,アンティークショップ“ノスタルG”で,40万円のナメゴン人形を壊したことから,その店でアルバイトをすることになる。ところが,その店周辺では巨大蟹やら人蟹やらが目撃され,不穏な噂が流れ始めていた。そんな中,密室殺人事件が発生。遺体は首と胴が切断されていた。まるで巨大な蟹のハサミで断ち切られたように・・・。

 さて『フォックスの死劇』につづく「紅門福助シリーズ」です。
 今回の事件の舞台はアンティークショップ業界,といっても古美術や骨董品ではなく,ブリキのオモチャや古いポスタといったプレミアム・グッズのコレクタの世界です。で,もうこれでもかという感じで,「昭和」を象徴するグッズが羅列されていきます。「羅列」というのはある種の暴力的なパワーがあって,それ自体が一種のギャグのようなところさえあるように思います。事件も,バラバラ殺人やら密室殺人,“サルカニ合戦”の見立て殺人と,派手派手しい事件が目白押し。さらに,サイコパス・キラーやら,都市伝説やらの蘊蓄が滔々と捲し立てられ,おまけに「つい言ってしまうのが俺の出来心」という,TPOをわきまえない“俺”の辛辣なギャグと白亀所長とのブラックなマンザイなどが随所に挟まれる,出てくる連中も,紅門に輪をかけたような奇人変人大集合といった感のあるコレクタたち,と,相変わらずテンションの高い作風です(笑)。
 また巻末の「参考文献」がずらりと並んでいるのを見ると,力が入っているなぁ,という感じです。とくに「あとがき」によれば,「都市伝説」にかなりはまりこんだようです。わたしも好きな世界ですので,その気持ちはなんとなくわかるのですが(苦笑),その蘊蓄にもう少しオリジナリティがほしいなぁ,と思うのは見当違いの感想でしょう(むしろ「怪人二十面相正義の味方説」の方がおもしろかったです)。ただちょっと詰め込みすぎの感がなきにしもあらずですね。まぁ,それもこの作者の持ち味かな?

 巨蟹や人蟹,あるいは殺人トリック(とくに最初の密室殺人の)などは,『A先生の名推理』と同じような「アホバカ」の世界なのかもしれませんが,まず「笑える」という点ではるかに楽しめますし,また紅門の推理がきわめて理路整然としていて好感が持てました(「一点突破全面展開」という方法は,『フォックス』と同じですね)。同じ素材でも「盛り方」ひとつで料理はずいぶん違ってくるのでしょう。ラストのラストで明かされる(?)おまけのような“真相”も,ニヤリとさせられ楽しめます。

 「狐」「蟹」ときたこのシリーズ,次回は「海老」だそうです。今度はどんな世界が飛び出てくるか,楽しみなシリーズのひとつではあります。

98/06/10読了

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