霞流一『フォックスの死劇』角川書店 1995年

 紅白探偵社のたったひとりの“特殊部隊”,俺こと紅門福助に,怪談映画の巨匠・大高誠二監督の未亡人から,奇妙な事件の依頼があった。故人の卒塔婆が空を飛んで,建築中のカラオケボックスの屋上に突き刺さっていたという。おまけに卒塔婆の頭には鬘が打ち付けられていた。さらに監督の死に際の謎の言葉「ハモノハラ」をめぐって,過去の映画フィルムの盗難事件。俺が奇態な事件の調査を始めた矢先,大高監督の別荘で,首無し死体が発見される。死体のそばには狐のお面。いったいなんの見立てなのか? そして事件を演出する「世紀末FOX」とは?

 世の中にはテンションが高く,またその高さが長続きするタイプの人がいます。作品にも,それぞれ独自のノリというか,テンションみたいなものがあります。この作品は,はじめから終わりまで,ハイテンションで一気に突き進みます。それもひとえに,主人公のキャラクタによるところが大きいでしょう。ハードボイルド探偵をカリカチュウアしたような,軽薄でいて辛口のセリフや描写が,ぽんぽん飛び出し,軽快にストーリーが進んでいきます。
 作者は映画会社勤務だそうですので,こういったセンスやテンポといったものは,映像的なつくりなのかもしれません。そのため,内容そのものはけっこう陰惨で,おどろおどろしい横溝正史風の世界ですが,それを見事に覆い隠して,読みやすい作品に仕上げています。
 そういえばこの人は横溝正史賞出身の作家でしたね。うがった見方をすると,これは横溝正史の「あの作品」のパロディなのかも・・・。

 舞台が映画界だけに,過去の映画,それも怪談映画やホラー映画に関する蘊蓄や,見立て殺人をめぐる衒学趣味が散りばめられますが,主人公のテンポのいい饒舌さとうまい具合に溶け合い,あまり違和感がありません。その間に,後から読むと,しっかり伏線が引かれているあたり,本格推理としても,うまいつくりだと思います。
 とくに最後に開陳される主人公の推理は,前半部分で,ちょっとした点に目をつけて,論理を積み上げて犯人を特定し,後半はそこから一点突破全面展開という感じで,謎解きをしていくところは,なかなか小気味よかったです。前半は分析的推理,後半は解釈的推理とでもいいましょうか。ただ,なんでそこまでわかるの? というようなところがないわけではありませんが・・・。

 ところで作品冒頭の「祝映画生誕100年」というのはわかりますが,「祝キツネうどん生誕102年」というのは本当なのでしょうか? それとも単なるシャレ?

97/04/27読了

go back to "Novel's Room"