津島誠司『A先生の名推理』講談社ノベルズ 1998年

 鎌倉在住,60歳前後,黒縁メガネに黒いベレー帽,コーヒー・紅茶・酒はいっさいだめの大の甘党,おだやかな丸顔ながら,いったん奇怪な謎に出会えば快刀乱麻の名推理。そんなA先生を主人公にした連作短編集+1編です。

 最近,講談社ノベルズにはあまり食指が動かなかったのですが,ウェッブ上でけっこう評判良さそうなので,読んでみました。
 ですが・・・・・,正直なところ「なんだかなぁ」といった感じです。一生懸命,奇抜な謎,奇想天外なトリックを考え出そう,創り出そうという熱意のようなものは感じられるのですが,どこか,作者ひとりが舞い上がってしまっていて,読んでいる方は「ああ,そうですか」と醒めてしまうようなところがあります(少なくとも,わたしは)。
 言葉は悪いですが,ある種の「バカバカしさ」があったり,「笑いをとる」ということで開き直っていれば,それはそれで別の楽しみ方があるのかもしれませんが,一方で,妙に生真面目な感じがひしひしと伝わってくるところがあって,笑い飛ばしてしまうのも,なんとなくためらわれ,結局,中途半端な気持ちのまま「なんだかなぁ」という印象だけが残ってしまいました。
 ついでに,いしいひさいちのマンガもあまりおもしろくなったですね,やっぱり元ネタのせい?

「叫ぶ夜光怪人」
 蒸し暑い夜,手塚市に突如現れた謎の夜光怪人。その恐ろしい叫び声に市民が怯える中,死体がふたつ,発見され…
 「ですます」調で書かれた文体は,ジュヴナイルを意識しているのかもしれませんが,たしかにジュヴナイル(それもずいぶんと古式豊かな)と思って読まないと,ちょっときついところがあります。とくに夜光怪人の叫び声で怯える市民を描いたシーンは,『少年探偵団』のノリです。
 夜光怪人の謎解きはまあまあ楽しめましたが,写真に写った幽霊の方は興ざめでした。雰囲気を高めるためかもしれませんが,ない方がよかったのでは?
 この作品,立風書房の『奇想の復活』が初出で,たしか読んだはずですが,ぜんぜん記憶に残っていませんでした。
「山頂の出来事」
 わさかさ山山頂にあるはずの山小屋が消えた! そのころわさか山では,伝説と同じような殺人事件が…
 途中でトリックは見当ついてしまいました。また,なぜ山小屋が逆さになっていたか,という謎の真相は,「ぜぇったい,そんなやつぁ,いない!」と,思わず突っ込みたくなりました(笑)。
「ニュータウンの出来事」
 1年前,銀行から5億円を強奪した犯人は,逃走中に工事現場に現金を隠すが,そこには巨大ニュータウンが建築され…
 前2作までは,なんとか「ある種のファンタジィと割り切れば・・・」などと思っていたのですが,なんでしょうかねぇ,これは。いやな言葉ですが「子供だまし」という感じです。この作者,「××××××××」を催眠術かなにかと勘違いしているんじゃないでしょうか? それと,A先生が,“私”の体験談を聞いただけで,メインの事件を1年前の5億円強奪事件に結びつけるのは,あまりに唐突すぎる感じがします。
「浜辺の出来事」
 友人の安田の叔父に脅迫状が届いた。“私”たちはボディガードとして叔父さんの家に向かうが,奇怪な出来事が続発し…
 そりゃたしかに「こういうこと」すれば,こんなわけのわからない奇妙な出来事は起きるかもしれませんが,「なんで,わざわざ,こんなことするの?」というのが,読後第一の感想です。とくに最後のトリックは,目撃者がいれば一発でアウトのように思うんですが?
「宇宙からの物体X」
 河本市山中に落ちた隕石。その隕石の中から出てきた“物体”が,奇怪な死を招く…
 もうここまでやられると「お疲れさまでした」という感じですね。たしかに,盛りだくさんの奇怪な事件について,それぞれ合理的な説明はついているのですが,いずれも小粒というかセコイというか, 「謎解き」というより「言い訳」を聞いているような感じがしてしまいます(とくに顔に乗った“物体X”の正体は,あまりに情けなくなってしまいました。宴会芸だよ,これじゃ)。
「夏の最終列車」
 ローカル線の最終列車が,その運転士の妻を轢いた。警察は自殺として処理するが…
 自殺もたしか「変死」ということで司法解剖するはずですよね。それでも騙される警察って,そんなに無能なのかなぁ? 江戸時代だったら,このトリックもよかったかも。でも江戸時代に列車はないからなぁ・・・。

98/03/18読了

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