井上雅彦編『物語の魔の物語 異形ミュージアム2 メタ怪談傑作選』徳間文庫 2001年
『妖魔ヶ刻』に続く「異形ミュージアム」の第2集。テーマは「メタ怪談」です。
口頭の「語り」による怪談において,クライマクスで,聴き手の背後を指差し,「ほら! そこに!!」と叫ぶのは常套手段のひとつです。つまり怪談はもともと,「語り」の中に聴き手(=読者)を巻き込んで恐怖感を盛り上げるという「メタ」的な側面を持っているのかもしれません。
13編を収録しています。気に入った作品についてコメントします(う〜む・・・長めの作品よりも,すっきりとしたショートショートの方が,このネタには適しているように思います)。
小松左京「牛の首」
感想文はこちら。
赤松秀昭「ある日突然」
ある日突然,ぼくは一人の少女に出会った…
「現実」と「虚構」が輻輳しながら,虚構が現実を飲み込んでいく・・・その結末を,あっさりとした,それでいて視覚的な効果抜群の一文で,鮮やかにまとめ上げています。
三浦衣良「丸窓の女」
“私”は,丸窓の向こうにいる女のことが気になって仕方がない…
語る主体と語られる客体とが,さながらウロボロスの蛇の如く繋がりあい,溶け合っていく筋運びがスムーズなため,気がつくと,それを読む「主体」さえも失われていきそうな不気味さがあります。
井上雅彦「残されていた文字」
山中で遭難した“俺”は,手元に残されたペンで,ただただ書き続け…
「先は読めた」と安心して歩いていた道が,突然,ぽっかりとなくなってしまう,そんな不安感を上手にわき上がらせるラストの処理はいいですね。
岸田今日子「セニスィエンタの家」
スペインの小さな村で,“わたし”は奇妙な壁画を見る…
有名な童話の深層に隠されたダークな部分を描き出すとともに,それが「現実」に直結するラストが印象的です。作者の朗読する声が聞こえてきそうな1編。
横溝正史「鈴木と河越の話」
筆名を使って小説を発表した男の周囲に奇怪な出来事が…
横溝版『ダークハーフ』です。こういった発想は,洋の東西を問わず,作家さんに共通するものなのかもしれません。ラスト直前,鈴木が,「施主 河越」という,自分の「死亡広告」を見るところは,ブラックなユーモアがありますね。
星新一「殺人者さま」
“私”がビンに入れて流す遺書は,私を殺した人に宛てたものです…
あらゆるミステリの愛読者は,「犯人」の共犯者なのでしょう。名探偵によって告発されることもなく,無惨な事件の背後でにんまりと嗤う・・・おまけに,ひとつの作品を読み終えれば,さらなる「犯罪」を求める点,作中の「犯人」よりもずっと悪質かもしれません。
01/06/30読了
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