山前譲編『恐怖の化粧箱 女性ミステリー作家傑作選2』光文社文庫 1999年

 『殺意の宝石箱』に続く,「女性ミステリー作家傑作選」の第2集。9編が収録されています。
 気に入った作品についてコメントします。

近藤史恵「過去の絵」
 芸術大学の友人に,夭逝した作家の作品を盗作したという疑いがかかり…
 「盗作疑惑」を中心としながら,「若き芸術家」の焦慮を描き出しています。さらりとしたタッチの文体ながら,ときおり「どきり」とする鋭い文章がさりげなく挿入されるところが魅力と言えるでしょう。
斎藤澪「花のもとにて」
 理由も告げず,20年前に自分の元を去った吾郎。よし子はその手がかりを京都で見つけるが…
 じんわりと描かれる主人公と清乃との“駆け引き”,すべてを昇華させるような鮮烈なクライマクス・シーンと,それを暗転させるショッキングなラスト。全編,ジリジリとした緊張感に包まれた佳品です。本作品集では一番楽しめました。
戸川昌子「黒のステージ」
 駆け出しのフリーの芸能プロデューサ・菅野正一は,ひとりの女から,ある歌番組に出演できるようにしてくれ,と依頼されるが…
 青江京子正一に依頼する女―が,ステージ上で「なにか」をしようとしていることは,薄々見当がつくのですが,「なるほどこうきたか!」というツイストの効いたラストに驚きました。
永井するみ「プレゼント」
 スチュワーデスの遠倉麻子は,ふとしたはずみで,同僚のカードを盗み出してしまい…
 この作者の作品を読むのは『不透明な殺人』所収の「重すぎて」に続いて2編目ですが,辛辣な,容赦のない女性描写に凄みを感じてしまいます。「男性が見る女性」と「女性が見る女性」とは,やはり違うんだろうな,としみじみと感じました。
夏樹静子「暁はもう来ない」
 嫉妬深く,偏執狂的な妻を殺そうと,“私”と祐介は,計画的な殺人を実行するが…
 “真犯人”は途中でおおよそ見当がつくのですが,そこに至るまでの二転三転するストーリィ・テリングが,じつに巧みです。また冒頭に引かれた伏線の上手さも光っています。

99/11/19読了

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