山前譲編『殺意の宝石箱 女性ミステリー作家傑作選1』光文社文庫 1999年

 本書は,1997年に刊行された『赤のミステリー』『白のミステリー』を再編集した女性ミステリー作家作品のアンソロジィです。つい先日,書店でハードカヴァを見かけたばかりなので,ずいぶんと文庫化が早いな,という印象です。
 作家名五十音順に配された9編を収録しています。また巻末に編者による「日本の女性推理作家―全盛時代の到来 PARTI」と題された解説が付されており,これまであまり体系的に触れられることのなかった「日本女性推理作家史」を知る上で興味深いです。
 気に入った作品にコメントします。

井口泰子「蛾は踊る」
 死んだ実父の後妻・佳子とその娘・紀代に招かれ別荘を訪れた柳子。彼女はそこで佳子の死体を発見する・・・
 けしてトリック的には奇抜なものではありませんが,“真相”が二転三転していくところは迫力があります。また紀代のキャラクタ造形も凄みがあり,彼女と柳子との息詰まるような「女の闘い」も圧巻です。
今邑彩「疵」
 3ヶ月前,ホテルの一室で死んだ婚約者。密室状態であったため自殺を判定されたが,婚約者の妙子の元には不可解な手紙が送られてきた・・・
 「密室殺人」をあつかっていますが,この作品もトリック云々というよりも,その秀逸な構成と,ラストで明かされる「動機」のユニークさが楽しめる作品です。あっさりとしていながら,意味深いタイトルもいいですね。
加納朋子「フリージング・サマー」
 ニューヨークに行った友人・真理子のマンションで暮らす“わたし”の元に,奇妙な少年が現れ・・・
 伝書鳩が運んできた奇怪な「手紙」と,それとともに現れた「ヘンな子」というミステリアスなオープニング,平凡な展開が瞬く間に再編成されていくテンポの良さ,その「動機」をめぐるせつなくもハートウォーミングなエンディングなど,この作者ならでは卓抜な構成力が光る作品です。本作品集では一番楽しめました。
桐野夏生「黒い犬」
 母親の結婚式のために,ドイツから日本に戻ったユウリ。久しぶりに訪れた“我が家”で,彼は忘れ果てていた過去を思い出し・・・
 “父親”の象徴とも言える“黒い犬”を殺したのは誰か? そして両親の離婚のきっかけはその犬の死なのか? しだいしだいに蘇ってくる記憶が紡ぎ出すストーリィは,全編に引き絞るような緊張感を与えています。
栗本薫「ワン・ウェイ・チケット」
 喫茶店で,ナンパされている少女を見かけた“おれ”は,翌日,その少女が殺されたことを知り・・・
 「薫くんシリーズ」の番外編ともいえる作品です(本編の主人公の“おれ”がシリーズの方に出ていたかどうか,ちょっと記憶があやふやですが^^;;)。少々悪ぶった「語り口」が個人的には馴染めないところもありましたが,しっかりと伏線の引かれたラストの推理は小気味よいものがあります。もの悲しいエンディングもグッドです。

99/10/01読了

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