都筑道夫『キリオン・スレイの復活と死』角川文庫 1977年

 「キリオン・スレイ・シリーズ」の,『生活と推理』『再訪と直感』の間に挟まれた第2作,7編よりなる短編集です。これで3作すべて読了しましたが,全体的にちょっと物足りないシリーズでした。論理重視のシリーズとはいえ,わたしとしては,もう少しトリックがほしいところです。“勘違い”と“嘘”が多いと,やはりどうしても面白味に欠けます。

「ロープウェイの霊柩車」
 スキーに出かけたキリオン一行。途中のロープウェイの中で女が刺殺され…
 キリオンの謎解きの提示の仕方がちょっと意地悪です(笑)。作中でも言ってますが,このトリック,たしかに「綱渡り」の感じが強いですねぇ。
「情事公開同盟」
 マンションの住人に,彼らの秘密を暴露する手紙が届く。キリオンが首を突っ込んだ直後,殺人が…
 謎解きそのものはあまりぱっとしませんが,犯人の動機がしんみりさせます。考えてみると,この作者,ときとして動機もけっこう凝りますね。
「八階の次は一階」
 宣伝会社に“イトウ”を訪ねてきた女は,突然,8回の窓から飛び降り自殺をはかり…
 緊迫感のある作品です。またトリックとしてもひねってあり,この作品集では一番楽しめました。
「二二が死,二四が恥」
 作家たちの集まったパーティ。キリオンに話しかけようとした作家が,綿菓子に頭を突っ込んで死んだ…
 この作品集では,犯人や被害者の心理を強調するような作品が目に付きます。このシリーズの意図とはちょっと馴染まないような気がするんですが・・・。
「なるほど犯人は俺だ」
 キリオンたちが行きつけのバーのママが殺された。常連の大学生が,キリオンが犯人だと推理するが…
 ここでもキリオンは被害者の心理を強調するのですが,むしろこのシリーズでは,大学生の推理の方が似合うように思います。
「密室大安売り」
 刑事の監視下,バーのトイレで死んだ男。凶器はそこから発見されなかった…
 「なぜ密室から凶器から消えたか」の謎解きをメインとして,密室トリックそのものは古典的。じつにこの作者らしい“密室もの”です。
「キリオン・スレイの死」
 トニィのもとに天野警部補から電話。ラヴホテルでキリオンが女を殺して,自殺したという…
 このシリーズにしては派手な雰囲気の作品です。作者はキリオン・シリーズをこの作品でいったん終了させようとしたらしく,なんだかサービス作品という感じがしますね。

97/11/12読了

go back to "Novel's Room"