都筑道夫『キリオン・スレイの生活と推理』角川文庫 1977年

 自称・前衛詩人のキリオン・スレイは,友人の青島富雄の家に居そうろうを決め込むヘンなアメリカ人。生来のなまけ者にも関わらず,奇妙な事件に首をつっこみたがり,理詰めで事件を解決していく。そんなキリオンが遭遇した6つの事件をおさめた短編集です。この作者は,「トリックよりロジック」を重視する作家ではありますが,それをより徹底させた作品集と言えるでしょう。だから結末は,どこか「肩すかし」のような印象が否めない作品もいくつか入っています。ちなみに「キリオン・スレイ3部作」の第1作です。

 「実家から持ってきた懐かしのミステリ」第3弾です(けっこうつづくなあ)。

「なぜ自殺に見せかけられる犯罪を他殺にしたのか」
 ゴーゴー・クラブ“グロテスク”で,女が射殺された。だが店には銃は発見されず…
 たしかにキリオンの推理は小気味いいですね。ただそれが読者にきちんと提示されていないと,ちょっと読んでいて鼻白む感じがします。
「なぜ悪魔のいない日本で黒弥撒を行うのか」
 東京のどこかで本格的な黒ミサが行われているという。キリオンは,その体験者から話を聞き…
 ロジックというより,妄想的推理に近いんじゃないですかねえ,この作品の場合。
「なぜ完璧なアリバイを容疑者は否定したのか」
 キリオンとトミーが寿司屋で同席した女性。その夫がその時刻に殺されたという。ところが,その女性は自分のアリバイを否定してほしいとキリオンらにお願いにきて…
 やっぱりミステリにはトリックがあったほうが(わたしにとっては)おもしろいという例(笑)。一見,不利に見えることを逆手にとっています。本作品集では一番楽しめました。
「なぜ殺人現場が死体もろとも消失したのか」
 空き巣に入った先で女を殺してしまった男。恐くなって警官とともに戻ってみると,そこには殺人の痕跡がまったくなく…
 「どのようにして」死体が消えたか,ではなく,タイトル通り「なぜ」死体が消えたか,が,メインの謎になります。それはそれでおもしろいのですが…
「なぜ密室から凶器だけが消えたか」
 密室の中の死体と犯人。しかし凶器だけはなく,犯人曰く「おれは,この指で刺し殺したんだ!」…
 ううむ,密室物として読むと,かなり肩すかしを食らうんじゃないですかねえ(笑)。でも,「なぜ消えたか」は,なかなか説得力があり,おもしろいです。それから最後のキリオンの「決め」のセリフ,たがみよしひさが『依頼人から一言』でパロっていたなあ・・・。
「なぜ幽霊は朝めしを食ったのか」
 頃は大正,ある朝,土蔵の中で娘の死体が発見される。現場は密室,おまけに真夜中に死んだにも関わらず,朝飯を食べていた…
 これも「なぜ密室…」と同様,真相はちょっとあんまりのような気もします。まあ,問題は,なぜその「あんまりなこと」をしたのか,がポイントになるのでしょうが。

97/08/22

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