都筑道夫『キリオン・スレイの再訪と直感』角川文庫 1978年

 『生活と推理』『復活と死』につづく「キリオン・スレイ・シリーズ」の第3作です。ははは,読む順番間違えました(^^;。ま,短編集だからいいか,ネタばれもありませんでしたし。例によって,自称・前衛詩人のキリオンが,一見不合理に見える謎を論理的に解いていく連作集です。

「如雨露と綿菓子が死につながる」
 園芸趣味もなく,マンションのベランダに植木も置いていない男が,なぜか如雨露を買った夜に自殺。自殺の理由もない…
 ミステリでよく見かける「×××殺人」を逆手にとったような作品です。ううむ,途中まで「あのこと」を隠しておくというのは,うまいというか,あざというというか・・・。
「三角帽子が死につながる」
 キリオンとトミィが妻殺害時のアリバイを証明した男が,その妻殺しを白状して,自殺した…
 これはちょっといただけませんねえ。結局,冒頭に提示された奇妙な謎が,生きているとはいえませんからね。
「下足札が死につながる」
 銭湯の中,男が刺し殺された。しかし凶器は周囲から発見されず…
 凶器消失の謎です。トリックは,まあ,「トリックよりロジック」という本シリーズのコンセプトからして,大したことありませんが,「なぜ銭湯で殺したのか」の謎ときのプロセスは,楽しめました。
「女達磨が死につながる」
 休養で訪れた温泉の露天風呂で,キリオンたちは女の死体を発見する。ところが,発見したとき彼女の背中にあった女達磨の青刺が消えてしまい…
 犯人の思惑があまりに安易というか,「×××と思うでしょう」とは,ふつう,思わないでしょう(笑)。
「署名本が死につながる」
 古本屋で,汚い古本を,新しい署名本に置き換えて出ていった女。ところが女は殺されて…
 本シリーズの眼目のひとつである「冒頭の奇妙な謎」をさらにひとひねり加えたというか,逆手にとったような作品です。ここまで来ちゃうと,かなり作者も苦労したんじゃないかと思います。
「電話とスカーフが死につながる」
 恋人から「おまえは人を殺す」と占いされた女性編集者が,その恋人に電話している最中,恋人が殺され…
これも「署名本」と同様,「奇妙な謎」を作り上げる本シリーズの苦労がしのばれるような作品です。でも「署名本」よりは楽しめました。

97/09/01

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