太田忠司『狩野俊介の冒険』トクマノベルズ 1993年

 シリーズものというのは,途中で読み落としがあるとどうも落ち着きません。『夜叉沼事件』『玄武塔事件』の間に,本短編集が刊行されていることを知り,なんとなくもやもやしていたのですが,書店で見つけ,さっそく購入しました。
 長編シリーズは,どちらかというと「驚天動地の大トリック」といった傾向が特色ですが,こちらは,短編ということもあってか,「ワン・アイディア・ストーリィ」的な性格が強いようです(と思っていたら,作者も「あとがき」でそんなこと書いてました(笑))。でも相変わらず俊介くんは,明晰な頭脳とナイーヴな心でもって,事件を解決していきます。
 「狩野俊介シリーズ」4編と,「番外編 青年探偵・狩野俊介の冒険」1編をおさめています。

「硝子の鼠」
 誕生日に送られてきた“硝子の鼠”にひどく怯える塩谷美香。厳格な校風で知られる清麗女学院理事長の彼女の父親の依頼で,その送り主を探し始めるが…
 う〜む,読んでいてわたしも「あのこと」や「あの不自然さ」に気づいていたのに,真相までは推理できんかった……やっぱり,狩野俊介はすごい! といったところです(<じゃなく,作者を褒めるよーに(笑))。
 ところでこの作者,「間違っていたらごめんなさい」というセリフを,俊介の「お得意のフレーズ」にするつもりなのでしょうか?(つまり,このセリフが出てくるときは,もう「間違っていない」というようなニュアンスで)
「加古町の消失」
 野上と俊介は散歩の途中,うろたえる青年と知り合う。彼は「なくなった“町”を探してほしい」と言い出し…
 この作品の真相もねぇ,おおかたのところは見当ついたのですが,最後の一押しがわからんかった。だからラストで明かされる真相に「をを,なるほど!」と膝を打ちました。なかなかうまいミスリーディングですね。
「雨天順延の殺人」
 早朝,藤田美恵子のもとにかかってきた間違い電話。「晴天なら決行,雨天なら順延」の殺人計画。いったい誰が誰を殺そうとしているのか…
 一種の“アームチャ・ディテクティヴ”といった趣の1編です。ある程度ヴォリュームをつけるためでしょうが,途中にちょっと余計なエピソードが入っているような…。野上が,やはり探偵らしく,それなりに格闘術の心得がありそうなのはわかりましたが。
「俊介の道草」
 ここのところ,俊介の帰りがどうも遅い。彼はなにを隠しているのか? 野上は俊介のあとを尾行するが…
 野上の目を通して,俊介の不思議な行動が語られ,最後に俊介自身によって,その“謎”が語られる,というシリーズの中ではちょっと異色なテイスト。「狩野俊介自身の事件」とでも言いましょうか。
 ただシリーズ中に挿入されたワン・エピソードという感じで,少々盛り上がりに欠ける点が残念です。
「電脳車事件―番外編 青年探偵・狩野俊介の冒険―」
 「人造頭脳」を組み込んだ新型車“流星”の中に死体が! 温泉で療養中の青年探偵・狩野俊介がその謎に挑む!
 「あとがき」によれば,「狩野俊介」というキャラクタは,“少年探偵”よりもこちらが先だそうで,シリーズとは関係のない“パラレル・ワールド”の“狩野俊介”だそうです。
 というか,設定そのものもパラレル・ワールド風です。人語を解し,「ロボット三原則」をしっかり守る(笑)「人造頭脳=コンピュータ」が出てくるのに,なにやらレトロな雰囲気(「帝都」とか「警邏車」とか)に満ちあふれた作品です。なぜか高橋葉介の「夢幻紳士」の世界を思い出させます(いや,べつに怪奇風というわけではなく,レトロなところが,です)。
 設定が大仰なわりには,謎解きは小粒ですね。これもワン・アイディアなのでしょうね。

 「硝子」と「加古町」はけっこう楽しめたのですが,あとの作品が少々もの足りない感じで,全体としては(~-~)といったところです。

98/02/22読了

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