日下三蔵編『城昌幸集 みすてりい 怪奇探偵小説傑作選4』ちくま文庫 2001年

 「夢は,二度,見てはいけないのです」(本書「夢見る」より)

 『岡本綺堂集』からはじまる「怪奇探偵小説傑作選」の第4集です(『横溝正史集』『久生十蘭集』も購入済みなんですが,積ん読してまして^^;;)。2部構成になった本書は,「第1部」「みすてりい」と題する,著者の自選短編集に編者が増補したもの,「第2部」は編者自身の選択による独立短編となっています。文庫版10ページ内外の掌編54編を収録しています。
 気に入った作品についてコメントします。

「艶隠者」
 世間から隠れたZ・Z氏が殺害された真相は…
 周囲から人が入ることを拒絶するかのような大都会の「孤島」を舞台にしながら,それを,さながら白日のもとにさらすような俗っぽいラストを持ってきたことに,敗戦直後という時代的な背景を読みとってしまうのは,うがちすぎでしょうか? このような,どこか「失望」を匂わせる幕引きは「その夜」にも通じるものがあると思います。
「ママゴト」
 ふと迷い込んだ寺とその門前町。じつはそこは…
 自分自身だけの「異界」を創り出すという,異様なまでの「こだわり」を描いた作品です。ちょうどその正反対の趣向,妄想の世界を現実化することで味わう失望を描いたのが「模型」なのでしょう。
「古い長持」
 「けっして見てはならぬ」と言われた長持を,老妻は我慢できずに開け…
 淡々とした描写で,なにごとかを秘めた「長持」の不可思議を描いた怪談。いったい「長持」はなんだったのか? それをいっさい曖昧なままにすることで,得体の知れぬ不安を醸し出しています。
「その家」
 商用で訪れた“その家”で,“私”は言いしれぬ恐怖をおぼえ…
 たしかに「理」の内に落とせないことはない・・・納得できないことではない・・・しかしそれは「真実」なのか? “私”が肌で感じ取った,理屈では割り切れぬ「恐怖」こそが,「本当」なのかもしれません。「理」と「理外」とのブレンドが絶妙です。偶然泊まった宿屋の仏壇に,亡妻の写真を見いだすという,同様の趣向の「波の音」もよいですね。
「花結び」
 15年前,突然姿を消した妻を捜そうと決心した孝作は…
 ちょっとした日常的仕草から,妻を捜そうとするオープニングが,妙にリアルに感じられます。それが上手に美しいラストへと結びついていき,すっきりとした着地になっています。。
「怪奇製造人」
 感想文はこちら
「死人の手紙」
 ふとした手違いで手にした手紙。いたずら心で返事を出したことから…
 やはりショートショートの核となるのは「奇想」だと思いますが,本編は,その奇抜さが十分に楽しめる1編といえましょう。ラストで,それまで確かに「ある」と信じていたものが,すうっと消えていくような不安感を感じます。
「脱走人に絡る話」
 秘密結社からの脱走人と追っ手との熾烈な戦いは…
 3編よりなるオムニバスです。本集中には犯罪に関わるようなミステリアスでサスペンスフルな一断面を切り取ったような作品がいくつか見られますが,本編はその中でもっとも秀逸な作品です。「追う者」と「追われる者」との駆け引き,戦い,騙しあいを,余分な部分を削り取った,緊迫感のあるシチュエーションで描き出しています。同じようなテイストの作品として「七夜譚」「此の二人」などもグッドです。
「晶杯(さかずき)」
 友人の恋人が語った,友人の奇怪な死に様とは…
 「殺人淫楽」「妄想の囚虜」などとともに,今風に言えばサイコ・ネタの作品のひとつです。奇怪な妄想に取りつかれ,ついには死へと至った男の悲劇を,淡々とした「語り」で描くことにより,不気味さを盛り上げています。
「宝石匣」
 とある外国の港町で女から宝石匣をあずけられた“私”は…
 「浦島太郎」に代表されるように,民話ではしばしば「開けてはいけない」という禁忌を課せられた主人公が出てきます。本作もそれをメイン・モチーフとしながら,そこにミステリ的な謎解きを巧みに絡ませています。やはり「この手のもの」は開けないに越したことはないようです(笑)
「面白い話」
 元船乗りだったバーのマスタから,ひとりの男の数奇な人生を聞いた“私”たちは…
 一昔前の「復讐譚」を思わせる「佐田さん」の話のあとにひとひねり。“私”たちの粋なリプライが心地よいところへもってきてのもうひとひねり。とにかく気持ちのよいエンディングが鮮やかです。こんな洒落たマスターのいるバーに行ってみたいものです。
「影の路」
 子どもの頃に出会ったひとりの女。それ以来彼女は…
 主人公が遭遇した女はいったい何者だったのでしょうか? 軒と軒とが接する下町であるがゆえに通じる「異界」に棲む魔女の類なのでしょうか? それとも主人公のトラウマがもたらした妄想なのでしょうか? 「最初の出会い」を描いた,日常と非日常とが微妙に交錯する導入部がいいですね。

01/05/25読了

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