中島河太郎編『異端の文学 II』新人物往来社 1969年

 奥付にはありませんが,表紙には「怪奇・幻想・恐怖名作選」というサブタイトル(?)がついています。8編を収録したアンソロジィです。当然「I」もあるわけですが,そちらは未入手です。

島田一男「奇妙な夫婦」
 アメリカ人を妻に持つ芸術家の夫。彼の言動に不審な点が…
 ストレートな「猟奇犯罪もの」かと思いきや,ラストで思わぬツイスト。前半の,猟奇テイストを盛り上げる描写に,上手に伏線を仕込んでいるところが巧いですね。
山田風太郎「不死鳥」
 隣家の老人に不可解な事件が続発するのは,“ぼく”のせいなのか…
 人間の心理を操りながらも,一方で,その操り手も操られ,いったい誰が真の「操り手」なのかどうか,それさえもよくわからなくなる,という,この作者ならでは「心理ミステリ」です。
日影丈吉「奇妙な隊商」
 ある昼下がり,公園に現れた隊商とは…
 タイトルどおり,あらゆる解釈を拒むような,まさに「奇妙」としか言えない作品です。この作者が,こういったファンタジィ・テイストの作品を書いていたのに,驚きを覚えます。
朝山蜻一「巫女」
 儀式の途中で死んだ新興宗教の巫女。彼女が残した手記には…
 「くびられた隠者」といい,この作品といい,この作者,変態心理が好きですねぇ(笑) 主人公の心の動き,凡人であるわたしには,ちょっと「濃すぎ」ます^^;;
三橋一夫「鏡のなかの人生」
 なぜ“私”が,鏡のなかで暮らすようになったのか? それは…
 「鏡の向こうへ移り住む」というスーパーナチュラルなものでなくても,「人生はほんのささいなことで180度変わってしまう」ということの比喩としても,読めるのではないでしょうか?
高木彬光「鼠の贄」
 鼠を極度に恐れる男が残した手記には…
 怪異な導入部,二転三転するミステリ的展開,そしてグロテスクなラストシーンと,この作者の作品を読みあさっていた頃,すごく印象に残った作品です。それと神津恭介が,真相に気づくきっかけもおもしろいです。
山村正夫「狂った時計」
 前夜,人を殺した男が目を覚ますと,“翌日”は“昨日”だった…
 主人公の意識は「未来」へと流れているのに,周囲は「過去」へと戻っている…そのギャップでの殺人者の戸惑いと焦慮が,じつによく表されています。また男の狂気の不気味さと,その狂気がすべてを男に幻視させたのかもしれないという曖昧さを描いたラスト・シーンもグッドです。本集中,一番楽しめました。
角田喜久雄「沼垂の女」
 アンソロジィ『乱歩の幻影』所収。感想文はそちらに。

05/12/04読了

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