大瀧啓裕編『ホラー&ファンタシイ傑作選3』青心社 1986年

 『ウィアードテイルズ』からのアンソロジィ第3集。8編を収録しています。

シーベリイ・クイン「奇妙な中断」
 海賊船に拉致された青年には,恐るべき運命が待ち受けいていた…
 ヴァイオレンス,エロス,グロテスク…う〜む,西村寿行みたいな世界です(笑) とにかく,残忍冷酷な海賊船長ブラック・ルドルフによって翻弄される主人公のふたり−ウィラビーカリメリタの運命がすさまじいです。また17世紀を舞台にしていることから,キリスト教的な色合いを強調していながら,彼らを救うのが,カリブ諸島のブラックマジックである点も,興味深いですね。
デイヴィッド・H・ケラー「地下室になにが」
 この作者の短編集『アンダーウッドの怪』「地下室の怪異」というタイトルで所収。感想文はそちらに。
ポール・S・パワーズ「不老不死の妙薬」
 “わたし”は不老不死の秘密を得た…しかし肉体は墓に埋められている…
 う〜む…これって「不老不死」なのかなぁ…単なる「幽霊」のように思いますが(笑) 原題は“The Life Serum”,直訳すると「生命の血清」ですが,「生命の本質」とでも訳すのでしょうか?
オーガスト・ダーレス「吹雪の夜」
 西窓のカーテンを開けてはいけない…メアリー叔母がこだわる理由は…
 叔母のかたくなな態度が秘めた謎,語られる奇怪な過去,そして吹雪の中の人影…と,謎の提示・信じがたい「語り」・事件・真相という,オーソドクスながら,ミステリアスな展開が楽しめるホラーです。
ロバート・E・ハワード「夜の末裔」
 気絶した“わたし”が目覚めたのは,太古のおぞましい世界だった…
 『黒の碑』所収の作品にも見られる,太古の血まみれの闘争劇を描いた,まさに「ハワード節」といった作品です。まぁ,それはそれでいいんですが,主人公の「世界観」が,なんだかナチスアーリア人種至上主義に通底するものがあって,少々引いてしまいます。発表年は1931年,ヒトラーが着実に権力を握りつつある時代…もしかすると,ナチスが突出していただけ,こういった発想は,当時の人々の間で,ある程度共有されていたのかもしれません。
ミンドレット・ロード「裸の貴婦人」
 自分を捨てた若い妻に,老人は復讐を計画するが…
 素材はきわめて古典的なものですが,ストーリィにひねりを加えることで,「奇妙な味」を上手に醸し出しています。また前半で,登場人物を個別のエピソードで描き出し,本筋へと合流させていく手法は,サスペンス小説などの影響なのかもしれません。本集中,一番楽しめました。
オスカー・クック「特別料理」
 夫が理由もなく行方不明になった妻の元に届いた小包には…
 今で言えば「サイコ・キラーもの」です。しかし,その「狂気的行動」の由来を,トラウマや幼年時の体験といった「内側」に求めるのではなく,「外側」に求めている点が,時代なのでしょう。
ソープ・マクラスキイ「六○七号室の女」
 エスラッジ警察部長を誘惑する蠱惑的な女…彼女は8日前に埋葬されていた…
 どうやらシリーズものの1編のようです。だから警察がオカルトに対して,これほど「理解」があるのでしょう(笑) ある種インキュバス的な雰囲気をたたえた女性キャラ,今だったらもっとエロチックな描写が横溢するところでしょうが,やはりそこは時代の制約があるのだと思います。ただなぜその女が,主人公にこれほどまでに執着するのかが,今ひとつわからないのが,ストーリィの牽引力として弱いところではないでしょうか。

05/05/22読了

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