大瀧啓裕編『ホラー&ファンタシイ傑作選2』青心社 1985年
『ウィアードテイルズ』掲載作品からセレクトしたアンソロジィ・シリーズの第2集です(第1集の感想文はこちら)。8編を収録しています。
フリッツ・ライバー「蜘蛛の館」
1年半前には小人だった男は,なぜ大男に変身できたのか…
一種のマッド・サイエンティストのSF的奇想をベースにしながら,ストレートな通俗ホラーに仕上げています。陳腐と断じてしまうことも可能ですが,むしろそのストーリィ・テリングの巧みを楽しんだ方がお得(笑)でしょう。
オスカー・シスガル「カシュラの庭」
男は,インド人の妻の催眠術によって“支配”されていると主張する…
主人公の,妻に対する殺意がめばえる場面での心理描写がよいですね。そしてその場面が伏線となって展開する後半のクライマクスも圧巻。
メアリー・エリザベス・カウンセルマン「黒い石の彫像」
若き彫刻家から,ボストン美術館に送られた手紙には…
本編のユニークさは,やはりモンスタの造形にあるのでしょう。それにしても,古い伝説の時代から,この手の「ネタ」があるのは,やはり欧米圏だからなのでしょうね。昨今ならともかく,日本であまり聞かないのは,日本が「木の文化」だからなのでしょうか?
ライフ・ミルン・ファーリイ「快楽の館」
“きみ”は,1937年8月4日の暑い夜のことを憶えていますか?
「カシュラの庭」と同様,「催眠術ネタ」というのは「時代の流行」なのかもしれませんが,「きみ」という「語りかけ」の体裁を取ることで,「自分の知らない自分」という恐怖をミックスさせた点がおもしろいですね。
R・E・ハワード「死霊の丘」
ソロモン・ケーンが,アフリカ大陸奥地で遭遇した怪異とは…
魔術・妖術入り乱れたアクション・シリーズの1作です。主人公よりも,ブードゥの呪術師ヌロンガの策略(伏線付き)の方が楽しめましたね。古いホラーに人種差別主義的な匂いがするのは,致し方ないのかもしれません。H・P・ラブクラフトも,黄色人種にかなり偏見を持っていたと聞きますし。
グレイ・ラ・スピナ「三毛猫」
ルームメイトとなった少女ヴィダには,奇妙なところがあり…
ときに恐怖の背後には「負い目」があるのかもしれません。「死霊の丘」と同様,黒人のブードゥを素材とした本編を読むと,「差別し迫害している黒人から,白人は復讐されるのでは?」という恐怖があるように思えてなりません。
ソープ・マクラスキイ「忍び寄る恐怖」
はじまりは鼠だった。そして“それ”は,つぎつぎと姿を変え…
ある有名なモンスタが引き合いに出されて怪異が説明されていますが,むしろSF的な発想がベースにあるのではないかと想像します。タイトルどおり,しだいにしだいに肥大化していく恐怖の描写の巧みさ,グロテスクでショッキングな映像的シーン,クライマクスでの盛り上がり,余韻あふれるエンディングなどなど,SFホラー映画を思わせる「ノリ」が楽しめる作品です。本集中,一番おもしろく読めました。
ロバート・ブロック「ノーク博士の謎の島」
孤島で秘密の研究をしているノーク博士。彼の取材で来島した記者が見たものは…
アメリカン・コミックの中でカリカチュアされたマッド・サイエンティストを,さらにカリカチュアした作品です。バックグランドとなっているアメ・コミにあまり関心がないので,笑いの「ツボ」みたいなところがよくわかりません。アンソロジィ『マッド・サイエンティスト』に収録されていますが,案の定,感想文はアップしていませんね(^^ゞ
04/06/13読了
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