大瀧啓裕編『ホラー&ファンタシイ傑作選1』青心社 1984年

 「未知のもの,真に超自然的なものをまえにして,恐怖を感じない者がいるとしたら,わたしは誓っていうが,その者には魂というものがないのだ」(本書「大洋に鳴る鈴の音」より)

 「ファンタイ」ではありません。「ファンタイ」です(笑) アメリカの著名なホラー雑誌『ウィアード・テイルズ』掲載作品をセレクトしたアンソロジィの第1集です。編者の「作品解題」によれば「第1期全5巻」とされていますが,青心社のサイトによれば,どうやら第4集までしか出ていないようです。巻末に「ウィアード・テイルズ掲載作リスト」を収録。ちなみにカヴァ・イラストは山田章博です。

P・スカイラー・ミラー「壜のなかの船」
 父親とともに入った骨董屋で見つけたボトル・シップは…
 骨董屋の主人は何者なのか? 彼とのチェスに負けたらどうなるのか? そして緑色の球形の壜に入った船とは? なにもかもが曖昧でありながら,日常生活の中に紛れ込んだ「異界」の不気味さが十二分に表現されています。
マンリイ・ウェイド・ウェルマン「学校奇談」
 駅に降りた転校生を待ち受けていた級友とは…
 今の目からすれば,「級友の正体」は,それこそ冒頭からわかってしまうところもありますが,登場人物たちの語る言葉の内容が得心できるラストは,どこか苦笑を誘います。
クラーク・アシュトン・スミス「魔力のある物語」
 男は,祖先に関する記録を読み進めるうちに…
 もしかすると作家さんは,こういった「物語」を希求しているのかもしれません。「物語」が本来的に持つ「非日常性」と響きあわせながら,ラストで「自分自身に対する恐怖」へと展開させていくところは巧いですね。
ロバート・E・ハワード「夢の蛇」
 彼は子どもの頃から夢を見る…自分に襲いかかる大蛇の夢を…
 夢の内容が現実へと浸食してくる,というモチーフそのものは,やや陳腐な観が免れませんが,やはりこの手の作品の魅力は,それをどれだけ緊迫感をもって描けるか,という「語り口」の優劣にあるのでしょう。その点ではなかなかグッドです。
G・ガーネット「コボルド・キープの首なし水車番」
 ある目的のために“わたし”は,コボルド・キープを探し出そうとするが…
 コロンブス以前に,アメリカ大陸に到達したヨーロッパ人がいた,という伝説ともトンデモともつかぬ話があるそうです。そんなオカルト伝奇ものめいたテイストがある作品です。
ロバート・ブロック「エチケットの問題」
 国勢調査員の“わたし”が訪れた家は…
 この作者は,すぐれて現代的なシチュエーションに,突然,中世めいたオカルトが挿入されるという趣向のホラーがお好きなようです。主人公がジタバタと「理性」にしがみついているうちに,事態がどんどん進行してしまうおもしろさがあります。
ヘンリィ・カットナー「墓地の鼠」
 墓地の番人マッソンは,ある理由から,墓地の鼠を憎んでおり…
 墓地の地下トンネル内での巨大鼠との死闘という,おぞましくもスリルたっぷりのストーリィを,ホラー作品のある古典的モチーフ(ネタばれ反転>生きながらの埋葬)の変形ヴァージョンへと着地させているラストは,鮮やかです。
メアリー・エリザベス・カウンセルマン「猫のような女」
 “ぼく”の新しい下宿には,不思議な女と猫がいて…
 オーソドクスな「猫怪談」といったところですが,すっきりとまとまっていて読みやすいですね。今だったら,同じ素材でももう少しエロチックになるかもしれません。
アーサー・J・バークス「大洋に鳴る鈴の音」
 航路からはずれた大海で,“わたし”たちが遭遇した恐怖とは…
 舷窓から覗く怪異,奇怪な鈴の音,船員の失跡,そして主人公たちの前に現れる,海ならではの淫靡で不気味なモンスタ,と,そのスリルあふれるストーリィ展開とともに,「海洋怪談」の醍醐味が味わえる作品です。
ニクツィン・ダイアリス「サファイアの女神」
 人生に失敗した“わたし”は,異世界では記憶喪失の王だった…
 この世のダメダメ男が,なんの苦労もなく(笑)“あっち”へ行ってしまうというオープニングや,主人公がじつは「王様」だったというシチュエーションからして,つい腰が引けてしまいます。う〜む,異世界ファンタジィは,やはりどうもいまひとつのれません。

04/05/08読了

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