大阪圭吉『銀座幽霊』創元推理文庫 2001年

 『とむらい機関車』と同時刊行された,この作者の初期短編集。11編を収録しています。

「三狂人」
 脳病院の院長が惨殺され,3人の狂人が脱走した…
 トリックそのものはオーソドクスでシンプルなものですが,グロテスクな展開の中に,上手にトリックと伏線を埋め込んでいます。
「銀座幽霊」
 一室で発見されたふたつの死体。加害者は被害者よりも先に死んでいた?
 加害者と被害者の死が時間的に逆転していたり,密室状況で犯人が消失したり,さらにはダイイング・メッセージと,短編ながらミステリ的謎が多数仕込まれているところが楽しいですね。謎解きはやはりシンプルですが…
「寒の夜晴れ」
 殺人者の乗ったスキーの跡は,天に昇るかのように雪原の途中でかき消えており…
 トリックが明らかになる時点で,事件の構図が読めてしまうのは,短編だから致し方ないのかもしれません。しかしそこから立ち上がってくる,あまりに哀しい結末が,この作品の持ち味になっています。
「燈台鬼」
 不自然に灯りを消した燈台で発見されたのは,巨石に潰された死体だった…
 どちらかというと小粒なトリックの多い中,思わぬ「力業」に遭遇して驚きました。奇怪な死体と,燈台から逃げ去る不気味な怪物と,怪奇趣味も横溢した作品で,本集中ではちょっと異色です。
「動かぬ鯨群」
 1年前,海で遭難死したはずの男が戻ってきて…
 死んだはずの男がさらにもう一度殺される,というサスペンスたっぷりの展開。クライマクスを海上に持ってきたところも,そのサスペンスを盛り上げるのに一役買っています。それゆえトリックは大技ですが,それがよくマッチしています。
「花束の虫」
 感想文はこちら
「闖入者」
 画家は,見えるはずのない富士山を描きかけたまま死んでいた…
 「富士山の謎」はなかなかユニークですし,またそれが画家の死に結びついているところはきれいなのですが,どうも「見せ方」がいまひとつで,不可解さが伝わってこない感じです。途中の「はずれる推理」もちと邪魔ですね。
「白妖」
 脇道のない有料道路から1台の自動車が消えた。その頃,車の持ち主の家では殺人事件が…
 密室状況での自動車消失という,冒頭に大きな謎が提示されるのですが,正直,それがあまり活かされていないようです。途中で挿入される小さな謎がじつはメインだったというのが,いまひとつの感があります。
「大百貨注文者」
 ある社長の元に,つぎつぎと彼の注文を受けたという人々が現れ…
 いたずらとも,いやがらせとも取れる奇妙な大量注文,その意図は奈辺にあるのか? という謎が,コンパクトですっきりとした暗号ミステリとして着地するところは,おもしろいですね。しかし,その使い方というか,シチュエーションが無理っぽくて,興を削いでます(以下ネタばれです。マウスをドラッグしてください>監禁されている状態で,あんな変な電話を何回もかけられるとは,とても思えません
「人間燈台」
 嵐で閉ざされた孤島の燈台から,ひとりの男が姿を消した…
 真相は途中である程度推測がつきますが,「語り手」がひとつずつひとつずつ手がかりを積み重ねながら,おぞましい結末へとたどり着いていくプロセスが良いですね。主人公が心労と苦悩が巧妙な伏線になっているところも小気味よいです。
「幽霊妻」
 男は,死んだ元妻の幽霊に殺されたのか?
 前半の怪談じみた展開と,あまりにギャップのある真犯人。どこか「バカミス」を彷彿させる作品です。

02/01/25読了

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