ミステリー文学資料館編『「ぷろふいる」傑作選』光文社文庫 2000年

 戦前の探偵小説専門誌『ぷろふいる』に掲載された作品11編を収録しています。本誌がデビュウするも,さほど活躍することなく姿を消した「新人」から,綺羅星の如きビッグ・メジャァまで,ヴァラエティに富んだ1冊になっています。「幻の探偵雑誌1」という副題がついており,『「探偵趣味」傑作選』『「シュピオ」傑作選』と刊行が予定されているようです。近年のミステリ・ブームが,このような企画に結びつくのはうれしいですね。ですから,今回の「(^o^)」は,企画そのものに対する評価も含まれています。
 気に入った作品についてコメントします。

角田喜久雄「蛇男」
 鬱屈した日々を送る作家“私”の隣室に,奇妙な男が引っ越してきて…
 本当に隣室に引っ越してきたのは,作中で語られる奇怪な「蛇男」なのか? それとも病的な“私”の脳髄が生み出した妄想なのか? 狂気の淵に片足をつっこんだ主人公の描写が,全編に尋常ならざる緊迫感を与えています。皮肉と言うにはあまりに無惨なラストも「ぞくり」ときます。
夢野久作「木魂(すだま)」
 俺はどうしてコンナ処に立ち佇まって居るのだろう…踏切線路の中央に突っ立って考えていた…
 知っているはずの「自分」が,しだいしだいに分解,溶融していく様を,モノローグのような文体で描くのは作者の十八番でしょう。再読作品ながら,読みながら感じる,得も言えぬ酩酊感,眩暈感は,やはり凄いですね,この作家さんは。
海野十三「不思議なる空間断層」
 友人の友枝八郎が見た奇妙な夢。それは女を撃ち殺す夢だった…
 この作家さんの卓抜した奇想は,しばしばSF的な体裁をとりますが,この作品では,その奇想がミステリ的枠組みの中で存分に発揮されています。京極夏彦を思わせる心理的トリックと物理的トリックとの融合,そしてモノローグを用いた巧妙な展開,本集中,一番楽しめた作品です。
大阪圭吉「花束の虫」
 友人・岸田直助が崖から突き落とされて殺された。大月弁護士はその真相に迫る…
 驚くべきトリック,というわけではありませんが,小技を積み重ねながら謎を解いていくプロセスは小気味よいものがあります。
小栗虫太郎「絶景万国博覧会」
 御彦楼に住む元遊女・お筆は,毎年,奇怪な「雛壇」を飾り…
 遊郭という純和風の舞台設定に,強引に(笑)西洋風拷問用具を持ち込んでしまうところが,この作者らしいといえばこの作者らしいですね。視覚的錯覚を用いたトリックも,この作者のテイストがよく出ています。雛壇というほのぼのとしたネタと,それに飾るものの悪趣味さとのミスマッチが,不気味さを盛り上げているところもいいですね。それにしても『青い鷺』の掲載誌は,本誌だったんですね。
木々高太郎「就眠儀式」
 大心地(おころち)先生の元に持ち込まれた相談は,奇妙な「就眠儀式」を持った少女のことだった…
 精神分析ものは苦手なのですが,前々から,タイトルばかり知っていて読みたかった作品ですので,やっぱりうれしいです。また精神分析的な推理に終始するのではなく,プラスαが加味されているところが楽しめます。

00/04/07読了

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