折原一『ファンレター』講談社文庫 1999年

 『天駆ける木馬』『朝の梟』…女子大生を主人公にした短編ミステリで絶大な人気を獲得した作家・西村香は,性別・年齢いっさい不明の覆面作家だった。そんな西村のもとに送られてくるファンからの手紙,編集者からのファックス。それらは西村を奇妙な事件に巻き込んでいく・・・

 「かつて覆面作家だったK・K氏に」という献辞のつけられた本書は,手紙やファックス,手記,留守番電話などからなる,この作者お得意の世界です。ただでさえ,「語り手」を混乱させる作家さんである上に,「覆面作家」という設定が混乱に拍車をかけています(もちろん,それが作者の狙いですが)。
 で,内容はというと,これまたこの作者の「底意地の悪さ」が全面展開! これほど主人公に共感できないシリーズ・キャラクタも珍しいのではないでしょうか?(笑)(まだ黒星警部の方が愛嬌があります^^;;)

「覆面作家」
 熱烈ファン・大瀬ななみと西村香は,何度か手紙をやりとりするうちに…
 読んでいる最中は,身勝手で思い入ればかり強いファン・大瀬ななみに反感持つのですが,それを上回る「悪意」が明らかにされるラストになると,彼女に同情してしまいます。むちゃくちゃ後味が悪い・・・
「講演会の秘密」
 西村香の元に舞い込んだ講演会の依頼。西村はそれを断るのだが…
 これまたなんとも身勝手な“ファン”の話です。いるんでしょうか? こういうわけのわからん性格の人物は…。小技が効いた作品です。でもやっぱり結末は苦いです。
「ファンレター」
 西村香の下の階に住む西林薫は,西村ファンの手紙を誤って開封したことから…
 真綿で首を絞められるようにサスペンス,じわじわと文面から伝わる“ファン”村中真知絵の狂気,どんでん返しのアイロニカルなラスト。本作品集で一番楽しめました。
「傾いた密室」
 アンソロジィ『密室』所収作品。
「二重誘拐」
 アンソロジィ『誘拐』所収作品。
「その男,凶暴につき」
 旅行雑誌を通じて温泉の紹介記事を依頼された西村香は…
 う〜ん・・・設定が違うだけで,トリック的には同工異曲といった印象が強いですね。
「消失」
 編集者が紛失した原稿を書き上げるためにホテルに缶詰になった西村香は…
 これもねぇ,同じなんですよね,先行する某作品と。このシリーズを続けるのにそうとう無理しているんじゃないでしょうかねぇ???
「授賞式の夜」
 新たに設けられた「日本ミステリ大賞」を受賞した西村香は…
 この作品と,このあとの2作は書き下ろしです。ラストでの意想外な展開に驚き,その大げさな「仕掛け」に苦笑させられます。でもちょっと西村に都合がよすぎるようにも思えますが^^;;
「時の記憶」
 探偵事務所に,記憶喪失の男が訪れ,「自分は西村香らしいのだが…」と告げるが…
 メインとなっているトリックは,すぐ見当ついてしまいますが,この次の「エピソード」との合わせ技がいいですね。西村の新作『ステップ』『リターン』が,単なるパロディに終わっていないところもグッドです。

98/04/25読了

go back to "Novel's Room"