我孫子武丸『ディプロトドンティア・マクロプス』講談社ノベルズ 1997年

 その日は珍しく2件の依頼があった。ひとつは失踪した大学教授の捜索。その依頼に気をよくしていた“私”へのもう1件の依頼は,なんと“カンガルー探し”。調査の結果,まったく関係なさそうに見えたふたつの事件は,どうやらどこかでつながっているらしい。ところが事態は“私”を巻き込んで,とんでもない方向へ・・・。

 始まりはハードボイルドタッチです。大手調査会社を辞め,金欠病でひいひい言いながらも,「ちびた鉛筆みたいなプライド」を抱え込んで,探偵稼業を続ける“私”の姿は,(少々情けないところもありますが)なかなかかっこいいです。事件の糸をたぐりながら,“私”が次第に事件の真相へと迫るプロセスは,この作者お得意の軽快な文章で描かれ,サクサクと読めます。
 ところがところが,物語の後半に入ると,マンガだったら(高橋留美子風に)「ちゅどーん!!」という擬音が似合いそうな,なんとも破天荒,荒唐無稽,奇想天外な展開です。前半の雰囲気から,まさか×××した主人公が,×××××と,京都の町を舞台にどつきあいの大暴れを繰り広げることになろうと,想像できる人がいるでしょうか?(いやいない・・・反語形)。ネタばれになるのであまりかけませんが,とにかく唖然とするというか,茫然自失というか,大笑いというか,とんでもない展開です。
 最近,柴田よしきの『炎都』といい,太田忠司の『3LDK要塞 山崎家』といい,往年のゴジラシリーズ円谷プロ系特撮番組へのオマージュが濃厚な作品が多いですねえ(あ,ばれちゃったかな?)。でもこの作品では,いつも「正義の味方」にいいようにどつきまわされる怪獣の側にも「彼らなりの事情っつうものがあるんだよ」というところを描いているような気がします。なんだか『ウルトラマン』の「シーボーズ」みたいですね(『セブン』だったかな?)。
 私も基本的にこういうノリは嫌いではありませんが,ただ物語としてはあまり成功していないんじゃないでしょうか。やはり前半と後半の落差が大きすぎて戸惑ってしまいます。

 ところでストーリーとは関係ないですが,一番笑ったのは次のような会話です。

沢田「俺も獣医師会のブラックジャックと呼ばれた男や。何とかしたろうやないか」
私「お前ーーまさか無免許か?」
沢田「あほう!腕がええっちゅう意味や。まあ任しとき」

 この珍妙なタイトルは,×××××のことですよね。一応辞書で調べましたが・・・。

97/07/16読了

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