大瀧啓裕編『クトゥルー 8』青心社 1990年

 「なにがありうることで,なにがありえないことかを,告げられる者などいない」(本書「潜伏するもの」より)

 7編プラス,編者による「クトゥルー神話画廊II」を収録しています。

ラヴクラフト&ダーレス「屋根裏部屋の影」
 死んだ大伯父の遺産を継ぐために課せられた条件とは…
 素材的には,けっして目新しいものではありませんが(ただし「家政婦の仮面」というイメージはグロテスクでよいですね),なんといっても主人公の婚約者ローダの,現代的なキャラ設定と行動力が,ストーリィにリズムを与えていて,楽しめます。
ヘンリイ・カットナー「侵入者」
 友人の作家は,「禁断の扉」を開いてしまったと言う…
 「禁断の扉を開く」というのは,クトゥルフ神話に限らず,ホラー作品の「定番」ですが,本編のポイントのひとつは,その手段としての「時間遡航薬」という発想のユニークさでしょうね。それと映画のワンエピソードを思わせるコンパクトな仕上がりもグッドです。
R・E・ハワード「屋根の上に」
 この作者の短編集『黒の碑』「屋上の怪物」という邦題で収録。感想文はそちらに。
アドルフェ・デ・カストロ「電気処刑器」
 メキシコの列車の客車で出会った男が語るには…
 主人公が疲労と倦怠に包まれた状況で,狂気じみた男と同室になるというシチュエーションが,緊迫感を高めています。そしてそれを踏まえて,初期設定からラストへと整合させていくプロットもいいですね。本集中,一番楽しめました。
ダーレス&スコラー「潜伏するもの」
 東南アジアの密林から生還した男が残した手記には…
 クトゥルフ神話でしばしば取り上げられる「太古の伝説を知る異形の民」モチーフの1編。SFX映画ばりのクライマクスが迫力あります。
C・A・スミス「名もなき末裔」
 仮死状態から蘇った妻は,子どもを産むが…
 異形のものとの交わりによって産まれたモンスタ,というモチーフも,神話ではよく見られるもののひとつですが,ラヴクラフトの作品では,わりと「ほのめかし」的に描かれることが多いようにも思います(彼の時代の倫理?)。本編ではそれをストレートに描いていますが,父親の苦悩を加味している点がおもしろく読めました。モンスタであっても,やはり子どもは子ども?
H・P・ラヴクラフト「インスマスを覆う影」
 言わずと知れた「原典」のひとつ。アンソロジィ『インスマス年代記』に感想文を書いています。

04/12/12読了

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