アル・サラントニオ編『999―狂犬の夏―』創元推理文庫 2000年

 『妖女たち』『聖金曜日』に続く,全3巻よりなるホラー&サスペンス・アンソロジィの最終巻です。今回はやや長めの作品が含まれています。また巻末に井上雅彦「解説―黄金時代とアンソロジー―」が収録されています。「異形コレクション」の編者らしい一文です。

ジョー・R・ランズデール「狂犬の夏」
 川縁で“わたし”と妹が見つけた女性の惨殺死体。それが“狂犬の夏”のはじまりだった…
 1930年代のアメリカの田舎町を舞台にした,ストレートなサスペンスです。たくましい父親,優しい母親,こまっしゃくれているけれどかわいい妹・・・まさに健全なアメリカ家族という設定は,過去を舞台にしないと描けないのかもしれません。主人公が子ども心に感じる妹に対する愛情や,「山羊男」に対する恐怖を,老人が過去を振り返るというスタイルを取ることによって(つまり第三者的な視点も加味することで),的確に切り取ってみせています。
トマス・リゴッティ「影と闇」
 「変容による回復」によって変身を遂げた芸術家・グロスヴォゲール。彼の企画した旅行に参加した“わたし”たちを待ち受けていたものは…
 視点を変えた,一種の「ゾンビもの」なのでしょうか? 執拗に言葉を重ねていくことによって,「言葉によって言い表すことのできない影と闇」を描き出そうという,逆説的な手法の試みなのかもしれません。いまひとつ,ピンと来ませんでしたが・・・^^;;
スティーヴン・スパイラル「ヘモファージ」
 マンションの一室で発見された女の死体。それが,引退したメリックを現場に舞い戻らせることに…
 「ヴァンパイアもの」というのは,どこかもの悲しい雰囲気を漂わせる作品が多いですが,この作品も,少々変わった切り口から,ヴァンパイアの悲哀を描き出しています。
トマス・F・モンテルオーニ「リハーサル」
 劇場の警備員兼掃除夫をしているドミニクは,ある夜,人のいない舞台で不思議な光景を目撃し…
 ホラーというよりファンタジィと呼んだ方が適切な1編。「時間テーマSF」にも通じるせつなさを帯びています。「あれ?」と思わせる描写をきっかけに,しだいに「現実」と「芝居」とを交錯,混淆させながら,クライマクスへと盛り上げていく手腕は見事です。読み終わって思わず溜め息がもれてしまいました。「狂犬の夏」とともに,本集中でのお気に入りの作品です。
デニス・L・マッカーナン「闇」
 会ったことのない大叔父の莫大な遺産を受け継いだハーロウ。その相続条件は,大叔父の遺した“光の館”に住むこと…
 オーソドックスな「幽霊屋敷もの」ですが,はっきりしないモンスタの影に怯えながら,徐々に「壊れていく」主人公の描写が迫力あります。またラストの「にやり」とさせられるツイストがいいですね。
ウィリアム・ピーター・ブラッティ「別天地館(エルスウェア)」
 「別天地館」につきまとう不吉な噂を払拭するために乗り込んだジョーンたちの一行は…
 中編と呼んだ方がいい,本集,というより本アンソロジィの中で一番長い作品です。前作に続いて,「幽霊屋敷もの」といった感じで,ストーリィは展開していきますが,登場人物たちが遭遇する怪異が,どこかオーソドックスな幽霊屋敷とは,ややテイストが違っていることに気がつきます。「もしや?」と思っていたら「やはり」という結末。ミステリ読みにも楽しめる1編に仕上がっています。やはり,今日日,普通の幽霊屋敷ネタでは済まないのでしょう。最後の最後の幕引きもうまいですね。

00/03/31読了

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