たがみよしひさ『雪の降る日は気をつけて』秋田書店 1999年

 「サスペンス&ミステリー選集」というサブ・タイトルがついてはいますが,ホラー・タッチの作品も含まれた,計5編よりなる短編集です。『NERVOUS BREAKDOWN』の作者だけに期待していたのですが,ストーリィ的に単調なものが多く,ちょっと期待はずれな感じがありました。
 ところで,この作者の実兄・小山田いく『臨死界より』の感想文でも書きましたが,秋田書店のホラー系コミックには,グロテスクな死体描写が「お約束」なんでしょうかねぇ…この作品集も,そのへんが妙に目につくように思います。

「雪の降る日は気をつけて」
 スキーに来た高校生6人組。ところが雪で閉ざされた別荘で,つぎつぎと仲間が殺されていき…
 クロースド・サークルで犯人は誰か? という趣向の作品なのでしょうが,たしかに「意外な犯人」ではあるとはいえ,動機があまりに唐突な感じで,もう少し「獣雪」に関する伏線がほしかったところですね。
「この沼でむかし死んだ」
 沼地にキャンプに来た6人の男女。そのうちの臆病な男を驚かそうといたずらを仕掛けるが…
 これまたクロースド・サークルでの連続殺人。今回は,もろモンスタが出てくるホラーではありますが,ラストでのツイストはなかなか巧くできています。
「夢みる少女」
 ストーリィが紹介できない「夢ネタ」の作品です。主人公のコンプレックスや願望,不安が綯い交ぜになった,夢の持つ独特の不条理さを巧みに表現しています。ラストはSFオチなのでしょうか? ちょっと意味がつかみにくいです。
「疾風迅雷(はしるいかづち)」
 海辺のコテージにヴァカンスに来た5人の男女は,折からの台風で閉じこめられてしまう。そして殺人事件が…
 う〜む…しつこくクロースド・サークル…あまりに芸がなさ過ぎるよなぁ…^^;; 殺害方法も「雪の降る日は…」とそっくりだし……。まぁ,「雪の降る日は」よりは多少ミステリ・タッチで楽しめますが…。ところで,本作品集の前3作の発表年は1996年,後2作日は1998年。絵のタッチが少し変わってますね。キャラクタが丸顔になって,なんだか幼児化した感じです。ギャグだったら,それなりにいいかもしれませんが,こういったシリアスものには,ちょっと馴染まないように思います。
「『38P(ページ)』」
 ミステリ・コミックのネームに苦しむマンガ家・椎名の元に,同業者の恋人・加納が訪れてきて…
 この作者には,「それさえもおそらくは平穏な日々」などの,マンガ家の日常生活からはじまるSF短編がいくつかありますが,今回はそのミステリ版といった感じです。ふたりの男女の間で交わされるミステリ・コミックのストーリィが,意外な結末をもたらします。ラストをより効果的にするために,ふたりの間にもう少し緊迫感がほしいところではありますが,お話としては,本作品集で一番こなれているように思います。

99/08/03

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