たがみよしひさ『NERVOUS BREAKDOWN』全13巻 学研
 『コミック ノーラ』に連載され,13巻で完結しました。たがみ作品の中では一番長いんじゃないかな。基本的に1話完結,長いものでも前・中・後編くらいのシリーズもの。

 舞台は田沼探偵事務所,登場するメイン・キャラクタの面々といえば・・・昔は敏腕刑事でならしたが,いまでは「所長」とは呼ばれるものの,ほとんど好々爺の田村平九郎,その娘で,事務所のいっさいを仕切り,コンピュータで警察のデータベースまで潜り込むハッカー(?)京子,頭脳はめちゃくちゃ切れるが,いつ死んでもおかしくない虚弱体質の安堂一意(そのくせ女癖が悪い),対照的に肉体は殺されても死なないが,おつむの中まですべて筋肉という三輪青午,財界の鉄魔人・稲葉鉄之介の孫娘で,安堂にほれて事務所にはいった美矢

 『金田一少年の事件簿』やら『名探偵コナン』やら,本格推理コミックがえらい流行っておりますが,それほど知名度はないものの(失礼),この作品も,知る人ぞ知る本格的な推理コミックなのであります。といって,毎回密室殺人やら,おどろおどろしい猟奇殺人が起きるというわけではなく,作者も「好きだ」といっていますように,都筑道夫の作品に通じるものがあるようです。あるときはこてこての本格物,あるときはハードボイルドタッチ,あるときはフォーサイスばりの冒険小説,と手を変え品を変え,読者を楽しませてくれます。
 おまけに一編一編のタイトルが,みんな有名なミステリ小説のパロディになっているあたり,作者のミステリへの深い傾倒がうかがわれます。さらにお得なことに,過去の作品の登場人物が,しょっちゅう顔を出し,たがみファンにとっても楽しめます。

 じつはこの作者,10年以上前,『コミック デュオ』という,いまはなきコミック雑誌に『依頼人(スポンサー)から一言』という,高校を舞台にした,やはり本格推理コミックを連載(?)しましたが,3回であっという間に切られてしまったという過去がありまして,『NERVOUS BREAKDOWN』はその雪辱戦なのかもしれません。『依頼人』のほうは,時代的に早すぎたのかもしれません。ちなみに『依頼人』は,『NERVOUS』の11巻に再録されております。

 ミステリファンにもぜひご一読をおすすめしたい一品です。


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