ゆうきまさみ『鉄腕バーディー』1巻 小学館 2003年

 凶悪なテロリスト,クリステラ・レビを追って,地球に派遣されてきた連邦のアルタ人捜査官バーディー・シフォン。ところが,レビの手先ギーガーとの戦いの最中,高校生・千川つとむをあやまって殺してしまう。やむなく,つとむと「二心同体」となったバーディーは,引き続き,レビを追跡するが,レビ側の反撃,つとむの非協力,連邦の責任追及と,事態は深刻さを増す…

 『パンゲアの少女 KUNIE』が,「打ち切り」という形で幕を閉じたとき,「この作者,青年誌に移るんじゃないのかな?」と思いました。『機動警察パトレイバー』『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』で見せた,この作者の「日常性」「ディテール」へのこだわりは,短いスパンでクライマクスを盛り込み,ストーリィ展開がひたすらスピード・アップ,テンポ・アップしている現在の少年誌の傾向の中で,異色なテイストを持っていました。『KUNIE』においても,最終的には,そんなスリルやスペクタクルへとなだれ込んでいったのでしょうが,そこにいたるまでの「プロセス」を丁寧に描き込まねば気が済まないこの作者は,そういった風潮に馴染めなかったのかもしれません。青年誌の方が,少年誌に比べればスロー・テンポへの許容があるのではないか,と思ったのです。
 ですから,同じ小学館とはいえ,『ヤングサンデー』へと発表誌をシフトさせたことは,さほど驚きはなかったのですが,その作品が『バーディー』というのは,正直,びっくりしました。
 旧『鉄腕バーディー』は,今から約20年前,月刊誌『増刊少年サンデー』に連載されたSFアクションで,この作者の,実質的なメジャー・デビュー作品と言えましょう。『究極超人あ〜る』に通じる「のほほん」としたギャグ・テイストもあるとはいえ,シャープな絵柄,スピーディな展開,背後に見え隠れするヘヴィな設定など,新しい才能の出現を告げる佳品でした。しかし『あ〜る』の連載開始にともなって,未完のまま,ファンとしてはなんとも残念な形で終わってしまいました。
 で,その後の作者へのインタビュー記事で,「『バーディ』の続きは?」という問いに「考え方・描き方が変わってきたから」と答えているのを読んで,「もう再開はないのかな」と勝手に思いこんでいたため,今回の復活に驚いたわけです。

 さて,その「青年誌への移行」「考え方・描き方の変化」は,しっかりと新生『バーディー』に反映されていると思います。まずはなんといっても分量。本巻の内容は,初期設定が同じであるということから,旧『バーディー』のリメイクといった感じですが,旧作において,1〜2話で済まされていた内容が,たっぷりと1巻使って描かれています。それは明らかにディテールの書き込みの増加でありましょう。
 たとえば千川つとむバーディーとの「合体シーン」。バーディーの“クラッシュ”が直撃し,死に瀕したつとむの描写は,少年誌では回避されそうなグロテスクな雰囲気があります。あるいはまた,旧作では「凶悪犯」とのみ書かれ,その実態はほとんど触れられなかったクリステラ・レビについても,220万もの命を死に追いやった恐るべきテロリストとして描き出されています。さらに,バーディー=つとむの存在を知ったレビ側の反撃も,つとむの家族を「人質」にとるという,じつに憎々しいものとして描かれます。つまり「戦い」をメイン・モチーフにした作品では,避けて通れない痛々しい部分,いやらしい部分が前面に押し出されている点で,旧作とは異なるリアリズムが付与されていると言えましょう。
 また,バーディーと「合体」を余儀なくされたつとむの反応も,旧作では,少年マンガらしく,すんなりと受け入れたのに対し,新作では,けっこう見苦しい(笑)抵抗をします。しかし考えてみれば,平凡な日本の一高校生が,宇宙規模の戦いに突如巻き込まれれば,こういった反応も自然なものと言えます。ここらへん,『パトレイバー』で既存の「ロボットもの」に,『じゃじゃ馬』で「ラヴコメ」に,それぞれ「日常性」を導入したこの作者らしい展開と言えましょう。いわば「ヒーローもの」に対する作者の「見方」の現れなのかもしれません。

 本編が,しばらく旧作のリメイクとして展開するのか,まったく異なる展開が待っているのかは,本誌を読んでいないわたしにはわかりませんが,いずれにしろ青年誌を舞台とした新生『バーディー』として,この作者の「新しい顔」を見せてくれるのではないかと期待しています。

03/07/25

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