ゆうきまさみ『パンゲアの娘 KUNIE』1巻 小学館 2001年

 30年ぶりに南太平洋の小島で発見された日向陽(あきら)の祖父・洋一郎。その洋一郎の孫,陽にとってはイトコにあたるクニエが日本にやってきた。「アキラのお嫁さんにきたでよ!」変な名古屋弁を使う彼女の出現で,陽の平凡な日常は波瀾万丈!! 一方,クニエの故郷付近では,海中から巨大な“杭”が出現し・・・

 さて,待望のゆうきまさみの新作です。前作『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』が,徹底的なまでに「日常性」にこだわったのに対し,こちらは,その日常性が撃ち破られるところから,物語は始まります。
 南太平洋からやってきたクニエ,彼女は,主人公日向陽の日常にちん入してきた「異人」に他なりません。このような「異人の参入による日常の活性化」というパターンの作品は,『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)『Gu Gu ガンモ』(細野不二彦)など数多くあることからわかりますように,まさに「マンガの王道」とも言えるものでしょう。
 また陽の友人たち。勝ち気でなにかと陽にケンカをふっかける少女七星まひる『オバケのQ太郎』(藤子・F・不二雄)ならば「ハカセ」の役回りとも言える頭の良い少年若生恭一,頭より体力勝負といった雰囲気の柳葉などなど,これまた小学校を舞台にした作品としては,「お約束」とも言えるキャラクタ配置です(まひるの実姉がクラスの担任なんてあたりも・・・<普通,こういうことは滅多にありません)。
 さらに,その「異人」が「押しかけ女房」という設定もまた,少年マンガではしばしば見られる設定であります(『うる星やつら』(高橋留美子)ですね)。それゆえ,そこに,いくばくかのセクシュアルなもの,エロチックなものが含まれることになりますが,パンツ1枚のクニエに対して,「いいから服着てよ。なんか恥ずかしいから」という陽のセリフに象徴されるように,男の側の「未熟さ」のため,ドロドロとした展開を回避し,コメディへと転化させています。ナガヤという直情径行タイプのキャラクタを絡ませるのも,ラヴ・コメお約束の「恋敵」でもあり,また「狂言回し」でもあるのでしょう。
 以上,挙げてきましたように,この作品の基本設定は,まさに「王道中の王道」です。しかしもちろん,だからといってつまらないわけではありません。この作者独特の「間」の取り方,ボケとツッコミは健在です。
 そしてもうひとつ,クニエと陽のコメディ・ドラマに並行して描かれる,南海に突然出現した謎の“杭”,そしてそれを監視する米軍,といったミステリアスなストーリィがあります。どうやら,この“杭”,クニエが故郷から持ってきた卵,そこから産まれた恐竜と,なにやら関係がありそうです(タイトルの「パンゲア」って,太古に存在したと言われる大陸の名前でしたよね)。
 つまり,陽の「日常」がクニエの登場によって大きく変貌しつつ,もうひとつ,(今のところ)彼らの外側では,大いなる「非日常」が進行しているわけです。これらがどのように結びつくのか,そのあたりが物語の当面の牽引力になりそうです(冒頭,南海の島でぼんやりする陽,「こんなのんびりしてていいのかなー」という彼のセリフが,意味深です)。
 まぁ,いずれにしろ物語は始まったばかり,「非日常的日常コメディ」の行く末を楽しみにしたいところです。

 それにしても,この作者のトリヴィアルなギャグは,相変わらずいいですね。米軍特殊哨戒艇上での会話−「艦長,艦内は昨年から禁煙になりました」「・・・かたいこと言うなよ」−なんか,アメリカ映画に出てきそうな「小ネタ」ですね。

01/09/25

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