和田慎二『少女鮫』5巻 白泉社 1997年

 4巻「第4部 検診編」で,おもいっきり引きを残した「涼子の秘密」(<なんか,ちょとH(笑))がついに明らかにされる「第5部 久須見ウィルス編」です。

 10数年前,大地震の原因を探るため,日本海溝に潜った深海調査艇“りんかい7000”。しかし乗員4人のうち3人が怪死をとげてしまう。彼らから採取された謎のウィルスをひとり隠匿した久須見病院の院長・久須見英次は,大地震で両親を失った涼子に移植する。だが“クスミ・ウィルス”に恐るべき秘密が隠されていた! 心臓に先天性疾患を持つ涼子は,このウィルスで奇跡的に助かるが,それとともに追われる“宿命”を背負ってしまう・・・

 涼子を紫堂に託した石動医師がウィルス関係の医者であることから,涼子の秘密にウィルスが絡んでいることはなんとなく予想はしていましたが,う〜む,これほど大風呂敷を広げるとは!(笑) まぁ,たしかに最近のホラーやサスペンスのエンタテインメント作品では,ウィルス・ネタやDNAネタは,流行りといえば流行りですものねぇ。それにしても話がでかい・・・。
 でもねぇ,“クスミ・ウィルス”がレトロ・ウィルスで,人類の進化になんらかの関わりを持っているかもしれないからといって,ヴァチカンがその抹殺に先頭切って乗り出すってのは,ちょっと説得力ありませんね(笑)。キリスト教の教義に反する学説を,暴力的に抹殺しようなんて,中世ヨーロッパじゃないんだから・・・(ヴァチカンが現代史の暗部にいろいろと絡んでいるという噂(デマ?)は聞いたことがありますが)。
 むしろクスミ・ウィルスの持つ人体改造力に着目した各国の軍事組織が彼女を狙い,ヴァチカンもそれに協力すると見せかけて,そのウィルスの抹殺をはかる,といった方が,設定として現実味があったのではないでしょうか? それとも,そんな現実味をこの作品に求めんでもいいのかな? でも話は大きければ大きいほどおもしろいからいいでしょう。ヴァチカンが持っているという「禁断の図書館」なんて,H・P・ラヴクラフトみたいで,伝奇好きのわたしとしては楽しめました。

 ところで本巻は,石動医師が紫堂貴広に,涼子とクスミ・ウィルスの謎を明かす,という形で物語が進みますが,そうすると当然,涼子が出てこない,それでは話が盛り上がりに欠ける(笑)ということで,もうひとつのエピソードが並行して描かれます。貴広の代理として涼子が,某国の初年兵を訓練するというお話です。涼子は,彼女独特の訓練(“ピクニック”と“ハイキング”(笑))を通じて,一癖も二癖もある初年兵を鍛え上げ,また彼らの心をつかんでいきます。しかし,こんな訓練で,よう死人が出ないもんだ(笑)。
 ところでみなさん,ピクニックとハイキングの違いって,ご存じでしたか? お弁当が目的なのがピクニックで,お弁当が目的でないのがハイキング,なのだそうです。わたしは初めて知りました(笑)。

 本巻ラストは「第6部 ふたたび戦場編」。某国から軍略データを盗み出した紫堂グループは,3手に分かれ,某国から脱出をはかる,というエピソードです。まだ始まったばかりなので,感想は次巻にて,ということにします。この作者,「ふたたび○○」というのが好きですね。『スケバン刑事』にいも「ふたたび地獄城」なんてエピソードがあったような・・・。

98/03/20

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