浦沢直樹『MONSTER』Chapter8 小学館 1998年

 Chapter7で,ついにヨハンの所在を突き止めたテンマは,ひとりヨハンを殺すべく,Dr.ギーレンDr.ワイヒマンの前から姿を消す。そしてギーレンから,テンマがミュンヘンに潜伏していること聞き出したBKA(ドイツ連邦捜査局)のルンゲ警部。ヨハンに関わる殺人事件を調べるべく,ミュンヘン大学に姿を現したニナ。当のヨハンは,ドイツ財界の大物・シューバルトの秘書となり,その辣腕ぶりを徐々に発揮しつつある。ついに運命の人々は,ミュンヘンに集結,ゆっくりと最後の歯車が動き出す・・・。

 といったところでしょうか。まぁ「最後の歯車云々」はわたしの勝手な予想でしかありませんが,いよいよメインキャストの揃い踏みであることは間違いありません。おまけにシューバルトがミュンヘン大学に大型コレクションを寄贈,そのセレモニィが開かれ,テンマはそこでヨハンを狙います。このことは,Chapter6に出てきた謎の予言,
「最後から二番目に多い年,木曜日の青年がこの地を訪れ,書物は炎に包まれ,この世のすべては,悲しみに包まれるだろう」
というセリフが絡んできます。やはりミュンヘン大学が最後の舞台になるのでしょうか? しかもヨハンも,テンマが自分を狙っていることをすでに知っているようです。その狙撃地点まで見当をつけている様子。はたしてテンマは狙撃に成功するのか? ヨハンの対抗手段は? いやがうえにもサスペンスが盛り上がります。

 そしてこの巻での見所は,いつも表情を変えることなく冷徹な笑みを浮かべるヨハンが涙を流すシーンです。ミュンヘン大学図書館で,偶然ヨハンが手に取った1冊の絵本。チェコのシェーベ(?)という作家の書いた絵本を見たヨハンは,涙を流し,そして昏倒します。その絵本に出てくるセリフ,それは
「僕を見て! 僕を見て! 僕の中のモンスターがこんなに大きくなったよ」
です。このセリフは,Chapter3で,ヨハンがテンマに書き残した言葉です。はたして絵本の作者とヨハンはいったいどういう関係にあるのでしょう。ヨハンには二重人格説がChapter4の中で語られますが,そのこととどう繋がるのでしょうか? いずれにしろ,「ヨハン」という“モンスタ”の根本に深く関わってくるのではないかと思います。
 この巻で,これまでに各所で撒かれたピースが,いまだ謎を秘めつつも,少しずつ少しずつ集まってきています。それらのピースがすべてはまるとき,物語はその全貌を現すのでしょう。だから「最後の歯車云々」もけっして的外れの予想ではないと思っています。

 ただメイン・ストーリィは結末へと徐々に向かっていますが,もうひとつの不気味な伏流が描かれます。ヨハンの周囲にいる少年たちの間で,奇妙な遊びが流行します。しかもそれはみずからの生死をかけた危険な遊び。このエピソードは,ヨハンによって翻弄され,人生を狂わされていくワン・エピソードなのでしょうか? それともラストへの伏線ではないでしょうか? それもメイン・ストーリィの終結後に描かれる(かもしれない)エンディングの伏線では? どうでしょう?(こちらの予想はあまり自信がありませんが(笑))

 それにしてもルンゲのおっさんは,あいかわらずいい味だしてますねぇ。Dr.ギーレンからテンマの居場所を聞き出すあたり,うぅむ,めちゃくちゃ性格悪いぞ(笑)。

 ところで先日書店に行ったら,浦沢直樹の代表作『パイナップルARMY』『MASTERキートン』と本書を合わせて「世紀末サスペンス3部作」と呼んでました。いかにも「とってつけたような」感じですね(笑)。

98/03/08

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