浦沢直樹『MONSTER』Chapter7 小学館 1997年

 Chapter6の後半から始まった,ヨハンを中心とした物語は,いよいよ佳境に入ってきました。ミュンヘン大学の学生として生活を送るヨハン,彼のもくろみはいったいなにか?
 この巻前半では,探偵リヒャルト・ブラウンの行動がメイン・ストーリーとなります。彼は大富豪ハンス-ゲオルグ・シューバルトから依頼を受け,シューバルトの隠し子を騙った男,そして自殺してしまった男の調査をしています。彼は刑事時代,酔った状態で凶悪な少年犯を射殺した過去があり,そのため酒におぼれ,妻とは離婚,娘とも会えない日々を送っています。そしてDr.ワイヒマンにアルコール依存症の治療を受けながら,探偵業を営んでいます。
 彼の調査の過程で浮かび上がる謎の未解決殺人事件。一見無関係に見えるそれらの事件は,ある1点で共通項を持っていることが判明します。それは“シューバルトを孤独にすること”。その背後にちらつくヨハンの影。しかしリヒャルトの周囲に起こる不審な出来事。彼に向けられる姿なき殺意。そしてついにリヒャルトの前にヨハンが現れ・・・・。
 ここらへんのストーリー展開は,なんとかアルコール依存症から立ち直ろうとするリヒャルトの姿と相まって,なかなかサスペンスフルです。とくにヨハンとリヒャルトの“対決”,いや対決というにはあまりに圧倒的なヨハンのリヒャルトへの攻撃は,「ぞくり」とするような雰囲気に満ちています。ヨハンの「どうです,飲みませんか?」の一言は,それまでに丹念に描かれてきたリヒャルトの人物設定に対する強烈なカウンタとなっており,ヨハンの“モンスター性”が存分に発揮されているシーンだと思います。ううむ,Chapter6の感想文での心配,ヨハンのモンスター性を盛り上げるだけ盛り上げといて,はたしてこの後,読者を裏切ることなく,そのモンスター性を描ききれるか?という心配は,この作者の場合,取り越し苦労でしたね。やっぱり,この作家はすごい。

 後半,ヨハンの魔手にかかったリヒャルトの仇を討つべく,Dr.ワイヒマンは,彼の教え子で犯罪心理学者・Dr.キーレン(彼はChapter5から出てきます)とともに,鍵を握る人物・Dr.テンマを探しだそうとします。が,ワイヒマンのもとにもヨハンの魔手が忍び寄ります。危機一髪のワイヒマンを救ったのがDr.テンマ。ふたたび物語は,テンマを中心に動き始めます。そしてテンマはヨハンと(一方的ですが)再会。ワイヒマンは,テンマの証言をもとにヨハンの犯罪を暴こうとしますが,テンマの意図は別にあることを知ったワイヒマン。はたして彼は,ヨハンを殺そうとするテンマを止めることができるのか! そしてシューバルト財閥に奥深く食い込んだヨハンの意図は? というところで本巻はおしまい。なんとも「おいしい」ところで,「To be continued」です。いよいよテンマvsヨハンの最終決戦に突入するのか?
 しかしまだエヴァ,ルンゲ,ニナがその姿を見せません。そしてChapter6でいわくありげに持ち出された予言,「最後から二番目に多い年,木曜日の青年がこの地を訪れ,書物は炎に包まれ,この世のすべては,悲しみに包まれるだろう」の謎も明らかにされていません。エンド・マークは,もう少し先のように思います。ただ,ミュンヘンの地が,この物語のクライマックスになるのではないかと予想しています。さてさて・・・・。

97/11/04

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