浦沢直樹『MONSTER』Chapter6 小学館 1997年

 “モンスター”ヨハンを追うテンマとニナ,そのテンマを追うルンゲ警部と元婚約者のエヴァ。そして彼らが遭遇する,ヨハンによって操られ,翻弄させられ,破滅していく人々。錯綜する追跡劇であるこの物語は,本巻途中で,大きな転機を迎えます。ついにヨハンが前面に登場,ミュンヘン大学を舞台として,新たなる“実験”を企みつつあるようです。
 これまでは,ヨハンに関わった人々の末路や陰惨な事件を描くことで,つまりヨハンの残した“爪痕”を描くことで,彼のモンスター性を描いてきましたが,いよいよ正面切って,ヨハンの悪魔的行動を描き出すことになります。いままでさまざまな形で,ヨハンのモンスター性を強調してきましたので,読者の方も身構えていますから(わたしだけか?),これからが作者にとって正念場ではないでしょうか。
 またこういった追跡劇では,追われる者を描くというのは,そろそろクライマックスが近いぞ,という場合が多々ありますので,この物語も,このまま最終局面に突入するのでしょうか? 「最後から二番目に多い年,木曜日の青年がこの地を訪れ,書物は炎に包まれ,この世のすべては,悲しみに包まれるだろう」 炎と包まれたミュンヘン大学をバックに,テンマとヨハンの最後の対決が迫る! そのときニナは!(と,これはわたしの妄想)。

 ところで本巻「第4話 男たちの食卓」で,テンマらが潜む山中の家で静養する,負傷した男とそのボディガードが登場します。彼らは何者なのでしょう。Chapter1〜5を読み返しましたが,彼らの登場するエピソードは見つけられませんでした。Chapter3で,ヘッケルがテンマに“もぐりの医者”をやってもうけようと持ちかけるエピソードがありますから,本筋には登場していませんが,そんな裏稼業をテンマは続けていて,その患者さんなのでしょうか?

 それから本巻「第3話 エヴァの告白」で,ヨハンがユンケルスを射殺するときに(Chapter1),じつはエヴァが隠れていて,ヨハンの顔を目撃していたという(少々,後からとってつけたような)エピソードが描かれていますが,いままでわたしは,ヨハンは1発だけ弾丸を撃っていたと思っていました。たしかにその場面では,3コマ「ドン」「ドン」「ドン」と描かれているのですが,これは映画なんかで,ひとつのシーンを異なるアングルで撮して,迫力をつけるのと同じような手法だと思っていました。ところが,本巻で,描写通り,3発発射していたことを知り,自分の勘違いを知るとともに,けっこう迫力あるシーンだなと思っていただけに,ちょっと興ざめです(なんて,勘違いしたおまえが悪いんだろうが!)。ううむ,浦沢直樹のマンガは奥が深い・・・(だから勘違いだって!)。

97/06/05

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