浦沢直樹『MONSTER』Chapter5 小学館 1997年

 旧東ドイツの孤児院“511キンダーハイム”で育てられたヨハン,彼は,「この世の終わりに,たった一人生き残ること」を目標とする「怪物」だった。はからずも自分が「怪物」を助けてしまったことを知ったDr.テンマは,自分自身で「決着」をつけるため彼の後を追う。いわれなき殺人の濡れ衣を着せられ,逃亡者となりながらも・・・・。そしてヨハンの双子の妹・ニナもまた,養父母を殺した彼を追う。さらにテンマの逮捕に執念を燃やす連邦捜査局のルンゲ警部と,テンマを憎む元婚約者のエヴァ。彼らが行き着く先で出会うヨハンの恐るべき力と,彼に人生を翻弄される人々。ヨハンはどこにおり,なにを企んでいるのか,テンマの,そしてニナの運命は?

 このマンガの魅力のひとつは,テンマとヨハンをめぐる追跡劇をメインストーリーとしつつ,テンマやニナが追跡の過程で接するさまざまな人間模様を,丁寧に描いているところでしょう。
 たとえば,Chapter4で,ヨハンのなかにふたつの人格が存在する,いわゆる「二重人格」の可能性が示唆され,テンマは大学時代の友人の精神分析医を訪ねます。そこでは,屈折した精神分析医の心模様が描かれ,またニナによる養父母殺害犯追跡のエピソードでは,殺害犯の揺れ動く心理と悲劇的な結末を,巧みなコマ割りで描き出しています。ただこういったサイドストーリーがあんまり続くと,メインストーリーの吸引力が弱くなってしまうのではないか,とちょっと危惧してますが・・・。

 さて,この巻の後半では,ルンゲ警部が久しぶりに出てきます。このおっさんもなかなか屈折していて,けっこう好きなキャラクタです。テンマを追いつめる寸前で,テンマ逮捕のために利用した男に刺されるあたり,じつにこの警部の性格が招き寄せた災厄といった感じで,展開が自然に感じられます。ここらへんは,うまいなと感心しました。どっかのご都合主義的なサスペンス作家に見習ってもらいたいものです(笑)。

 ところでこのマンガ,月2回発売の『ビッグコミックオリジナル』に連載されているのに,へんにコミック化のペースが遅くありません? 途中で休載とかしているんでしょうか?

97/04/05

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