ひらのあゆ『迷宮書架』雑草社 2003年

 『別冊ぱふ』『活字倶楽部』に,9年にわたって連載されている「ジャンル評マンガ」というか「ジャンル・パロディ・マンガ」といいますか,そんな4コママンガ集です。6つの小説のジャンルについて,それぞれ20本程度の作品が載せられていますが,もともとは各号で1ジャンル1本,6本から成り立っていたようです。この作者らしい,シンプルでかわいい感じのタッチながら,内容的にはけっこう「毒」のあったりして楽しめます。この作者の『ラディカル・ホスピタル』も好きですが,また別の一面を見たという感じですね。
 ところで,わたしにとって『ぱふ』というと,「マンガ専門誌」ということだったんですけどねぇ…(°°)(<御達者倶楽部ネタ^^;;)

「SF・ファンタジー」
 SFやファンタジーによく出てくる基本設定やアイテムをひねった作品が多いですね。200年後の未来に行けるタイム・マシンに乗ろうとした男が,「昔は未来に憧れがあったのに,今はただ恐ろしいばかりで悲しいよ…」とつぶやくというのは,じつにシビアな視点ですね。ギャグとしておもしろかったのが「竜の卵」のお話。妖精が拾った「竜の卵」,そこから出てきたのは宇宙人グレイ(笑) 「だ…大丈夫,ファンタジーは懐が広いのよ! 立派な竜になるわ,きっと」と強がりをいう妖精に,もうひとりが「素直にSF畑に返しなさいよ」と突っ込んでいるのが,いいです。あと「そのころSFはマンガアニメ星に大移民していた」というのも,思わず納得しちゃいました(笑)
「ミステリー・ホラー・サスペンス」
 「ちと切り込みが甘いかな?」などと思ってしまうのは,このジャンルをわたしがよく読むせいなのかもしれません。でも豪邸を見ると「連続殺人にはもってこいの家ね。死体が似合いそう」なんて発想する感覚,はっきり言って,よくわかります(笑) 探偵志願の少女が,家政婦になるという話は,「2時間サスペンス・ドラマの見過ぎ?」などとも思いましたが,現実の私立探偵と家政婦さんって,もしかして通じるものがあるのかもしれません。
「現代小説・純文学・歴史・時代小説」
 なんだかすごいカップリングで,「ジャンル」とは呼べそうにありませんが,作者のコメント「純文学は実は『その他』なのでは?」には,うなずきそうな自分を見いだしました(笑) あるいは「エッセイとファンタジーとロリコンもの」なんでしょうね^^;; それと「今は「自称ピュア」が多くてヤになっちゃう」という女神様の嘆きに共感してしまうのは,わたしが年を食っているからでしょうか? ところで卑弥呼が,しょうもない占いするというネタ,『GS美神 極楽大作戦!!』にもあったような…
「エッセイ・ノンフィクション・ガイドブック」
 う〜む,「ガイドブック」まで俎上に乗せてしまうというのは,なかなかの強者(笑) エッセイ関係のネタは,けっこう本質を突いているところがありますね(「スケルトン人生」って,秀逸なネーミングですね)。また一見「とんでもない経験」のようでありながら,それが共感を持たれるということは,大なり小なり,普通の生活にも似たようなことがあるという指摘もうならされました。
「少女小説・ボーイズラブ」
 作者が扉で「殿方は沈黙と微笑でパスを」と書いているとおりです(笑) ぜんぜん知らない世界ですから,なんともコメントのしようがない^^;; ただ男同士のカップルが転生して,最後にニホンサギになってしまうという話は,辛味が効いていて楽しめました。
「海外翻訳小説」
 こんな風に一括されるところに『活字倶楽部』の読者の読書傾向が現れているのかも?などと,関係ないところで妙に納得(笑) 一番笑ったのが,翻訳小説に飽きた男が「埋もれた物語」を探しに辺境に行くというお話。「男女の愛と家族の絆と神様のお話ばっかだったよ」という「答え」は,それなり当たっているのではないでしょうか。それと「翻訳家は「言葉のアレンジャー」」というセリフも的確ですね。翻訳家に求められるのは日本語の豊かなヴォキャブラリーでしょうから。
「番外」
 4編の「シリーズもの」を集めたコーナー。「流離いのドラゴン編」が,一応「オチ」がついていて,おもしろかったですね。

03/08/26

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