椎名高志『GS美神 極楽大作戦!!』全39巻 小学館 1991〜1999年

 ついに本作品も完結です。33巻以降,「アシュタロス編」がどう転ぶかわからないまま,ついつい感想文を書き損ねていたのですが,完結したのを機に,簡単に全シリーズを振り返ってみたいと思います。

 読み切り短編「極楽亡者」はとりあえず置いておいて,記念すべき連載第1回「美神除霊事務所出動せよ!!」は,美神令子,横島忠夫に,幽霊のおキヌちゃんが加わり,この作品のいわばフォーマットができたエピソードです。で,2巻以降,六道冥子,ドクター・カオス&マリア,小笠原エミ,小龍姫,唐巣神父,ピートといった主だったサブ・キャラクタがつぎつぎと登場してきて,「極楽ワールド」を形成していくと言えましょう。
 そんなシリーズが最初に大きなターニング・ポイントを迎えるのが,横島がゴースト・スイーパーの資格を取得する「誰が為に鐘は鳴る!!」(9〜10巻)です。このエピソードによって,横島というキャラクタの「使い方」に幅が出てきて,それがシリーズ後半における彼の活躍へとつながっていくのではないでしょうか。また「母からの伝言」(12巻)や,「香港編」(13〜14巻)では,「時間移動能力」を持つ美神ママの登場,美神をめぐる「神族vs魔族の闘争」という,これまた後半に深く関わる要素や構図がほのみえてきます。
 その後,中世ヨーロッパを舞台にして,若きドクター・カオスの雄姿(?)を描く「ある日どこかで!!」(16〜17巻)や,新キャラ犬塚シノがかわいい(笑)「バトル・ウィズ・ウルブス!!」(18〜19巻))などの比較的長いエピソードをはさみながらも,短編モードがしばらく続きますが,19〜20巻でふたたび大きな節目。そう,おキヌちゃん復活編「スリーピング・ビューティ!!」です。冒頭に書きました美神&横島&幽霊のおキヌという基本フォーマットが解消されたエピソードです。またこのエピソードを読んでいますと,相変わらずギャグはきっちりはさみこむものの,作者の「ストーリィ指向」のようなものが見え始めているように思います。作者のマンガの描き方の変化,という点でも,ひとつの転機になっていると考えるのは穿ちすぎでしょうかね。
 さてそれはともかく,おキヌちゃんがいったん退場した後の「今,そこにある危機!!」「デッド・ゾーン!!」(21〜23巻)は,「アシュタロス編」のいわば伏線であります。あるいはまた,美神の前世であるメフィストフェレスが,横島の前世高島に惚れていた,という設定を作り出すことで,おキヌちゃんという「緩衝材」がなくなった後の,美神と横島との関係をある程度変更させる必要もあったのかもしれません。
 で,おキヌちゃんは,「スタンド・バイ・ミー!!」(23巻)で,死霊使いの笛(ネクロマンサー)の使い手として,ふたたび美神事務所に復帰します。が,はたして彼女の復帰がよかったのかどうか,というと,少々考え込んでしまいます。というのも,その直後の「サバイバルの館!!」(23〜24巻)や,おキヌちゃんをメインとした「バッド・ガールズ!!」(24〜25巻)は,個人的にはいまひとつ生彩に欠くような気がし,むしろおキヌちゃんがほとんど登場しない「私を月まで連れてって!!」(25巻)の方が,スピード感と緊迫感があって楽しめるように思います。
 やはり彼女の「非攻撃的性格」は,幽霊だからこそ生きてくるところがあり,ゴースト・スイーパーの一員としては,作者としてもちょっと使いにくかったのではないかと思います。 また前世での因縁が明らかにされたのちの美神&横島の間にも入りにくいところもありますしね。それに幽霊の頃だったら許せた横島の「煩悩」も,肉体を持った少女にとっては荷が重すぎるものなのでしょう^^;;ですから,その後の「アシュタロス編」では,横島の相方として新たにルシオラを登場させざるを得なかったのではないでしょうか?
 その「アシュタロス編」は29巻の「仁義なき戦い!!」から本格的スタートです。それが35巻の「エピローグ:長いお別れ」までじつに1年ちょっと・・・長かったですねぇ・・・このロング・エピソードを総括するのは,やはり美神の次のセリフでしょう(笑)
「一時はもう戻れないかと思ったわ・・・アシュタロス編って,途中から収拾つかなくなるんだもん・・・!!」
 そうなんですよねぇ,読んでいる方も,「いったいどうなるやら」とハラハラドキドキものでした^^;; とくに「南極編」から「コスモ・プロッセサ編」へのつながりとか・・・^^;; ただそんな中で,このエピソードの後半,強い求心力を作り出したのが横島&ルシオラだったと言えるのではないでしょうか? 対アシュタロス戦を軸としながらも,そこに横島とルシオラの悲恋を絡めることで,展開もスムーズになり,また物語としての膨らみも出ているように思います。とくにルシオラの持つ「闘う少女」「けなげな少女」という二面性―それはおキヌちゃんが持ちえなかったものです―が,ハードなストーリィ展開に叙情性を加味させたのだと思います。
 そして「アシュタロス編」閉幕後,ふたたび短編モードに戻るわけですが,わたしとしては「いつ終わってもおかしくないな」というような予感はありました。もっとも「アシュタロス編」をのぞけば,このシリーズは,基本的には独立エピソードをつなげていくタイプの作品ですから,作者自身も39巻のカヴァ裏に書いていますように「別に何かがどーなって「完」っていうまんがじゃありません」というわけです。ファイナル・エピソード「ネバーセイ・ネバーアゲイン!!」は,連載終了時によく見かける「後日談風エンディング」を逆手にとった,この作者らしいものではないかと思っています。
 ところで,39巻巻末に,「外伝 GSエミ 魔法無宿」なる短編が収録されています。サブ・キャラクタのひとり小笠原エミを主人公とした番外編ですが,これがまたなんと,ギャグいっさいなしのシリアス・ストーリィ。先に,この作者の「ストーリィ指向」と書きましたが,もしかすると,この作者,これからいろいろな「顔」を見せてくれるかもしれません。

 1991年に連載が始まって,8年の長丁場。シーナセンセ,お疲れさまでした。
 また楽しい作品をありがとうございました(_○_)

99/11/22

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