竹本泉『魔法使いさんおしずかに!』全2巻 エンターブレイン 2002年

 わたしの名前はスーザン=ソームズ,13歳。美人嫌いで売れない挿し絵画家の叔父フレッドとともに,このクルーリコーンに引っ越してきた。ごく普通の田舎なんだけど,テレビ・ドラマ好きのお隣さんエリーは,じつはなんと仙女! おまけにBFウィルのおじいさんは,大学教授で魔法使い,地下には小人さんたちが住んでいる! でも人間,なんでも適応できるのね。それはそれでとっても居心地がいい…

 初出は1984〜85年の『なかよし』。なんと18年前! 絵柄はちょっと変わってますが(それでもほかの作家さんに比べれば,はるかに変化が少ないです),テイストは現在とまったく同じ!(笑) なんかほとんど「職人」の世界ですね^^;;
 しかしそれにしても,『あおいちゃんパニック!』が文庫化されたり,今回,この作品が大判でリニューアル版が出たり,と,この作家さん,「大ヒット!」という作品こそないものの,安定した人気を持っておられるんでしょうね。そこらへん,絵柄のかわいさもあるのでしょうが,それとともに(現在の作品にも引き継がれている)ある種の「奇妙な味」が魅力となっているのかもしれません。

 で,その魅力はこの作品にも現れています。ジャンルとしては「ファンタジィ」なのでしょうが,それが「現実」と同一地平にあり,両者がなんの違和感もなく同居している。もちろん主人公のスウは,最初は驚くのですが,しっかりと適応してしまっています(笑)(ウィルなども,祖父ワーリー博士が魔法使いと知って,自分でも魔法を習ってしまうあたり,順応度が高いです^^;;)
 こういった「ファンタジィですよ!」という気負ったところがなく,ファンタジィと現実とがスムーズにつながってしまうテイストは,坂田靖子や,わかつきめぐみ『So What?』にも通じるものがあり,わたしとしては非常に馴染みやすい「世界」であったりします。

 それと「奇妙な味」というか,普通の少女マンガとはちょっと「ずれ」を持っているところも,魅力のひとつでしょうね。それがよく出ているのが,2巻の第8話。ウィルの前に,謎の美少女が登場し,またスウの「偽物」が現れるというエピソードです。スウの「偽物」は,古い鏡に映ったスウの虚像が実体化するという,ホラー作品では定番のネタなのですが,その鏡曰く,20年間も誰も映していなくてさびしかったというのが,なんともかわいらしいですね。
 また謎の美少女の出現というのは,ラヴ・コメでは,メイン・カップルがお互いの恋慕の心を確認しあうという定番中の定番パターンではありますが,そこらへんもひとひねりしてあって,スウの虚像がウィルに「好き」といい,またスウに「好き」というのはウィルの虚像というように,ストレートには描きません。こういった定石を踏襲しながら,さりげなく「ずれ」を持ち込むことで,コメディ仕立ての「変な味」を出していると言えましょう。

 もうひとつ気づいたのですが,スウとフレッド叔父さんとの関係は,『ルプ☆さらだ』に出てくるサラダと伯父さんとの関係に似ていますね。で,さらにこういった「伯父(叔父)と姪(甥)」との関係というと北杜夫の作品を連想します。北作品でも,親戚からは白眼視される「役立たずの叔父(伯父)」というのがときおり登場し,彼が主人公に影響を与えるというパターンがあったように思います。
 伯父(叔父)と姪(甥)というのは,けっして他人ではないけれど,親子や兄弟姉妹というほど密着もしていない,もちろん恋愛関係も成り立たない,そういった「遠くて近い関係」が,作品に独特のスタンスを与えているのかな,などと思いました。

03/01/04

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