竹本泉『ルプ☆さらだ』宙出版 1992年

 主人公はサラダという少女。10歳くらいでしょうか,ちょっとわがままで,好奇心旺盛な女の子です。「なんで〜,なんで〜,なんで〜」としつこく質問して大人を困らせるタイプ,といったところでしょうか?(笑) で,パパとママは,わりと常識人,現実的な性格でして,サラダの質問を適当にいなしたり,ときにまじめに答えようとしたりします(これくらいの歳の女の子に,彗星の「尾」の正体を科学的に説明しようなんて,どだい無理なことであります^^;;)
 そしてそこに登場するのが,パパの兄さん,サラダにとっては伯父さんにあたるキャラクタです。ダダをこねたり,質問したりするサラダに,「ホラ話」を聞かせます。まぁ,途方もない話で子どもを煙に巻く,といった感じがしないでもありませんが(笑),とにかくそのホラ話,いずれもほほえましくて,じつに楽しい。思わず「クスリ」と笑ってしまうような類のものばかりです。

 たとえば,レストランで「お魚,きらい〜〜」とわがままを言うサラダに聞かせるのが,「魚ぎらいの女の子のせいで,あやうく世界が滅亡しかけた話」です(「第2話 おじさんと海底王国」)。毎日,魚料理ばかりなので,魚嫌いになった海底王国の女王が,伯父さんからもらったチョコレートを好きになって,地上を征服しようという,なんともハチャメチャな内容。でも地上が海の底になったらやっぱり魚しかいなくなる,という伯父さんの筋道だった(笑)説明が笑えます。
 また「第6話 先頭の車」は,道路を走る自動車の列から,サラダが思いついた疑問「自動車の列のはじまりはどこ?」に対して,「先頭の車」があるというお話。でもって,その「先頭の車」のために,世界各地で,道路を作っているという発想のばかばかしさがいいですね(ちなみに,伯父さんの「お話」の中の登場人物は,いつもサラダが主人公であり,パパやママ,伯父さんが脇役で出てきますが,そのあたり,いかにも「子どもがお話を聞いている」といった雰囲気がよく出ていますね。子どもはしばしばお話の主人公にアイデンティファイするといいますから)。
 ばかばかしいといえば,なんといっても「第7話 山歩き」。テレビで「山歩きには最適な一日です」というセリフを聞いたサラダが,例によって「山へ行きたい!」とダダをこねるのですが,伯父さんに話しに出て来るというのが,「山歩き」というモンスタ。ダジャレとさえ言えないばかばかしさですが,その「山歩き」の姿が,なんだかケセランパサラン(ふ・・古!)みたいで,ちょっとラブリーです^^;;
 そのほか,伯父さんの登った山の頂上にレストランがあったり(「第4話 おじさんと山頂のレストラン」),風船につけられた種をまいたら恐竜になったり(「第5話 サラダと花の種」),南極の氷の中に閉じこめられていた少女が映画スターになったり(「第8話 映画女優になる方法」)と,他愛ないといえば他愛ないお話なのですが,この作者の,やわらかでメルヘン・タッチの絵柄で描かれると,ほのぼのとしたファンタジィ・テイストが横溢していて,そこが魅力となっています。

 この作品で,一番わたしが好きなのは「第10話 わがままなお姫様」です。理想的な婿を選ぼうと,候補者にいろいろと難題をふっかけるお姫様が登場しますが,そこには『竹取物語』などに出てくる民話的な設定を感じさせます。ところが,その試練にうち勝とうとする候補者たちが,その場所場所で,それこそ民話的な「運命的な出会い」をしてしまって,ひとりも姫のところに戻ってこなかったというお話。ふたつの民話のパターンを組み合わせることで,苦笑を誘うアイロニカルなお話を創造しています。

01/10/16

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