高橋留美子『犬夜叉』30・31巻 小学館 2003年

 白霊山で,奈落から分離した“鬼蜘蛛の心”は,ある目的のために高僧たちをつぎつぎと襲うが,ひとり高僧の霊力により分断されてしまう。しかし「白童子」として蘇った彼は,犬夜叉たちに告げる。「四魂の玉のかけらは「あの世」にある」と…

 うう,引っ越しやらPCクラッシュやらで,気がつくと,30巻,31巻が発売されてしまっていました。この作品は,はじめから一巻ずつ感想文を書くことを気にかけていたので,ちょっと残念。まぁ,そんなこともあるでしょう。

 さて,まず30巻冒頭は,前巻からの続き「鬼女の里編」です。これはもう,はっきり言って,弥勒珊瑚のお話。27巻で,互いに知らぬうちに,愛を告白したふたりではありますが,ここへ来て,ようやくのプロポーズ。今では滅多に聞かれなくなっちゃいましたが,「私の子を産んでくれ」というのは,当時では,これ以上ないと言うくらいの求婚の言葉なんでしょうね。ちょっと赤面しちゃいます(=^^=)(<そんなタマか!)
 それにしても,「鬼女の里」の妖怪の正体,じつはオオサンショウウオだったんですね。これも今では特別天然記念物ですが,昔は,それこそバケモノになるくらい(笑),たくさんいたんでしょうね。

 30巻後半から,31巻前半はというと「火の国の門編」白童子から,四魂の玉の,意外なあり場所を聞いた犬夜叉たちが,「あの世」につながる「火の国の門」に挑むという内容です。ですが,その直前,“鬼蜘蛛の心”は,高僧によって分断され,片方は神楽の手に,もう片方は神奈の手に渡り,そして神楽の方のが白童子として復活する,という展開になっています。
 じつはここで,ちょっと「いやな予感」にとらわれちゃったんですよね。というのも,この「分断」,もしかすると「引き延ばし工作」ではないか?などと思ってしまったわけです。これは「七人隊編」でも少々感じていたのですが,要するに「敵は多い方が,話が長くなる」ということで,この「分断」も,もしかすると,その手の類ではないか,というわけです。しかし,31巻で,白童子の心臓が別のところにある可能性が,神楽によって示唆されていますので,やはり意味があるのではないかとも思います。さてどうなるんでしょうかね?
 もっともこの作者,すでに30年を超えるキャリアの持ち主ですから,たとえ「引き延ばし工作」的な意味合いがあったとしても,しっかりとストーリィに組み込んでいくだけの経験と技量はお持ちだと思います。そのことは,たとえば今回の黒真珠をめぐるエピソード−犬夜叉たちが冥界の門に挑まなければならないシチュエーションを作るためのフォロウにも現れていると思います。要するに「黒真珠があれば,いいじゃん」というツッコミを排除させる配慮でしょうね。

 31巻後半は,「謎の聖さま編」です。白童子の強力な結界さえも撃ち破る矢を放つ“聖さま”。彼女は,奈落に殺されたはずの桔梗なのか?というミステリアスなエピソードです。
 その前に注目したいのが,新キャラ阿毘姫。母親を助けるために,奇怪な鳥を操って人の血を集める妖怪で,奈落は,どうやら「火の国の門」を通り抜けるために阿毘姫を利用しようとしているらしい,という設定です。けっこう美人風で冷酷無惨,それでいて母親を助けようとする情愛もある,という,なんか久々に「妖怪らしい妖怪」が登場したという感じですね。ここのところ,ロング・エピソードが多いので,こういった,初期の頃によく出てきたようなキャラの登場は,うれしいですね。

 しかし,本エピソードの“主役”は,やはり聖さまです。本巻ですでに,桔梗と関係があることは明らかになっていますが,完全に解明されているわけではない。「式神」を使って,“聖さま”を産み出したのは,桔梗なのか? あるいは別のものの意図が働いているのか? 
 31巻のラスト,かごめは,滝壺の中で眠る(?)桔梗を見いだします。やはり“聖さま”は,桔梗が作り出したのか? しかし“聖さま”に随うふたりの童子は,かごめに問います。「お選びください。お救いするか,しないか…」と。このセリフから,桔梗以外の意図が介在しているようにも思えます。そして桔梗の存在は,犬夜叉とかごめに,さらには奈落に,どのような影響を与えるのか?
 やはりここらへんの「引き」の巧さは,たまりませんね。

03/08/09

go back to "Comic's Room"