『封印』『ツタンカーメン』につらなる「古代エジプトもの」です。サブタイトルに「古代エジプト王朝唯一人の女ファラオ」とありますように,女ファラオ・ハトシェプストを主人公としたふたつのエピソードです。内容的には「I」が彼女のファラオ即位直前の時期を描き,「II」は彼女の少女時代が舞台です。
まず「II」は,ハトシェプストの父親トトメスがヌビアから,ミケネ(クレタ島)の巫女ロドピスを連れ帰ったところから始まります。次期ファラオの地位をめぐって宮廷内では陰湿な駆け引きが行われています。ロドピスはそれを巧みに操っていきます。彼女の思惑は奈辺にあるのか? さらに彼女は宮廷で孤立するハトシェプストを誘惑,「おまえは王(ファラオ)になる」と予言します。さながらハトシェプストの生涯を描くためのプロローグのような感じです。
ところでハトシェプストを誘惑するロドピスの姿―豊かな乳房を見せ,両手に蛇を握る姿は,たしかミケネで似たような人形が発見されていたのではないかと思います。その人形自身,かなりエロティックが雰囲気をたたえていますが,この作者が描くと,さらに凄みを増しますね。
「I」は成長したハトシェプストの前に,ふたりの姉妹巫女が現れます。妹はおつむが弱いけれど,出血を止めるという能力を持ち,姉は自覚はしていないものの未来を予知する力があります。そして彼女もまたハトシェプストに「王(ファラオ)になる」と予言します。しかし姉妹巫女は,美しく,孤高で,そして冷たいハトシェプストの「紫色の瞳」に人生を狂わされ,妹は死に,姉もハトシェプストの前から姿を消します。
このエピソードは,ハトシェプストを恐れながら,恋いこがれる姉の姿を描いてエンディングを迎えます。このラストは,こののちの展開の伏線のような感じがし,長篇作品になるところを,なぜかエピソードふたつで中断してしまった,というような印象を受けます。全体的に中途半端な感じがする作品です。しかし両編ともに,レスビアンの雰囲気を濃厚にたたえた,「ゾクリ」とくるエロチシズムを持っています。
(98/06/25追記:深川さんから,文春文庫に掲載されている「初出年」は間違っているというメールをいただきました。調べてみたところ,掲載されている「I」と「II」の初出年が実際には逆になっているようです。つまり発表順は「I」→「II」ということになります。感想のおおよそはあまり変わらないのでそのままにしておきます<ずぼらともいう(^^ゞ。
それと「山岸涼子(さんずい)」じゃなくて「凉子(にっすい)」だったんですね・・・。ずぅっと「涼子」だと思ってました。うう,恥ずかしい・・・(*o*)。深川さん,ご教示ありがとうございました。)