山岸凉子『ツタンカーメン』3・4巻 潮出版社 1997年

 潮出版社というところは,他誌で中断した作品の続きを刊行するのがお得意のようです。たとえば『ヤング・ジャンプ』で中断した星野之宣『ヤマトの火』『ヤマタイカ』として復活,完結させましたし,諸星大二郎『海神記』『西遊妖猿伝』の続きを『コミック・トム』に掲載したりしてます。この作品も白泉社刊の『封印』を(題名を変えて)完結させたものです。

 さて,ようやく「王家の谷」の発掘権を獲得したカーナボン卿ハワード・カーターですが,発掘は思うように進みません。何ヶ所も候補地を発掘しますが,王墓らしき遺跡は発見できません。発掘権を放棄したセオドア・デイヴィスが言うように「王家の谷には王墓はもうない」のか? パトロンであるカーナボン卿も,ついにカーターに「あと1年」という期限をつけます。焦るカーター。やはり未盗掘の王墓発見は夢でしかないのか?
 しかし1922年11月4日,彼は,誰も眼をつけることのなかったラムセス6世の墓のすぐ脇で,未盗掘の墓を発見します。そして26日,カーナボン卿の到着を待って,墓室を開きます。そこで彼らが見たものは,黄金に輝くツタンカーメンの墓でした。
 さまざまなきらびやかな副葬品,純金製の人型棺・・・,この作者の細緻で硬質なタッチで描かれた王墓の財宝の数々は,なかなか迫力があります。とくに墓室の扉の一部に穴をあけ,カーターが室内をのぞくシーンで描かれた見開きの財宝は,この物語のクライマックスにふさわしい神々しささえ感じられます(ちょっと,褒めすぎ?)。しかしツタンカーメンの黄金の人形棺を開く前,カーナボン卿は,原因不明の病気にかかり急死してしまいます。マスコミは「ファラオの呪い」と囃し立て,また王墓出土品の帰属をめぐってエジプト政府と間に摩擦が絶えません。そんな中,カーターは黙々と調査を続け,ツタンカーメンの純金の人型棺を開けたところで,物語は幕を閉じます。
 『封印』を読んだときは,これは山岸流「ファラオの呪い」の物語ではないか,と思い,そんな展開を期待する部分もあったのですが,かなり様子が違うようです。この物語は,ミステリアスで幻想的な雰囲気を漂わせているものの(とくに「カー」という不思議な少年の登場など),むしろそういった巷間に伝わる「ファラオの呪い」を排した,ハワード・カーターが夢を実現する「発見物語」なのではないかと思います。カーターの王墓発見にかける情熱,カーナボン卿の娘・イーヴリンとの淡い恋い,カーナボン卿の死の悲しみ,王墓発見の喜び・・・・,5000年前に死んだ王の呪いなどより,生きている人間の方が,はるかにミステリアスで,またドラマチックなのでしょう。わたしもエジプトに一度でいいから行ってみたいですね。

 ところで,『封印』の感想文で,カーターの姿形がとても実年齢に見えない,というようなことを書きましたが,この作者,どうやら年代的な関係を勘違いしているようです。1920年でカーターは37歳となっていますが,カーターは1874年(あるいは73年,情報源によって違うの(T_T))生まれ,46(か47)歳のはずです。またカーナボン卿との出会いの年や,王家の谷発掘の着手の年代もちょっと違うみたいです。詳しくは,こちらをどうぞ。

 それと4巻には,エジプト神話をもとにしたらしい中編「イシス」がおさめられています。時代は1万2000年前(ううむ,あのヨタ本のノリですねえ),後にエジプトと呼ばれる国に,オシリスセトという双子の兄弟がいた。オシリスがファラオになるも,セトは王位を奪おうとオシリスの命をねらうが,オシリスの妻・イシスは不思議な力を持っており・・・。オカルティックな宮廷陰謀劇のようなお話です。なかなか不気味な内容です。

97/10/10

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