細野不二彦『ギャラリーフェイク』14巻 小学館 1998年

 8編のエピソードを収録しています。

「サラと知念と」
 藤田不在中,サラに持ち込まれた“変わり兜”。その鑑定を文化庁の知念護人に頼み・・・
 知念に奥さんがいることは,12巻「地震観音」で明らかにされていましたが,本編で初登場です。その奥さんのサラへのサジェスチョン・・・なかなか男心をくすぐりますな(笑)。
「税金天国(タックス・ヘヴン)」
 日本画壇の巨匠・土田紅龍が死んだ。遺族には莫大な相続税がかかり・・・
 美術品に限らず,日本の相続税というのは莫大な額らしいですね(わたしには縁がありませんが(^^ゞ)。会社とかだったら,それなりに対応の方策があるのでしょうが,芸術家の場合は,そんなわけにはいかないのでしょう。土地も会社も美術品も,十把一絡げなのがこの国の体質を表しているのかもしれません。
「罪深きヴァンゲリス」
 ギリシアの小漁村を訪れた藤田。その海底には古代ギリシアの財宝が眠っており・・・
 先日感想文をアップした『妖女伝説』の旧シリーズ中でも,地中海海底の美術品のエピソードが出てきましたが,水底に沈む美術品というのは,どこか神秘的ですね。人間の手に触れることがない海底だからこそ,壊れることなく現代まで保存されていたのかもしれません。
「高麗と李朝」
 李朝陶磁のコレクタである安明植(アンミョンシク)は,ある日突然,高麗青磁を集めるようになり・・・
 何をもって「美」とするか,というのは,時代や地域によってぜんぜん違うのでしょう。日本の美術館で展示されていたゆがんだお茶碗―有名な名品だそうです―を見て,中国の人が「失敗品か?」と尋ねたことがあるそうです(笑)。
「地蔵現る!」
 ギャラリーの“顧客”地蔵は,藤田に店を閉めてくれ,と言い・・・
 犬猿の仲であった知念との関係が,なんだかほのぼのしてきた(笑)ので,新たなライバル登場,といったところです。藤田がやけにあっさりと騙されてしまいましたねぇ・・・
「放蕩息子の帰還」
 藤田が熱心に捜す“ジャコモの聖書”に隠されている秘密とは・・・
 “ストラディバリウス”のバイオリンが,異様に高額であることは聞いたことがありますが,その秘密はニスにあったんですね。ところで,この“ミッチェル・クーガー”ってロッカー,モデルがいるのでしょうか? 「なんちゃら・クーガー」(<ひどい!)という人がいたように思いますが・・・
「人形は見ていた」
 時効直前の殺人犯を逮捕するため,刑事は人形を追った・・・
 このシリーズ,ときおりこういったミステリ仕立てのエピソードが入りますね。人に知られぬ美術品を探すこと自体,ある意味では「探偵」的な側面を持っていますので,馴染みやすいのでしょう。
「波天奈(はてな)の茶碗」
 地蔵に招かれた藤田は,お歴々を前に啖呵を切り・・・
 地蔵,再登場です。で,落語のネタを知らないとは,今度は地蔵の方があまりにお間抜け過ぎるように思いますねぇ。このふたりが絡んだエピソード,どうもいまひとつピントが合わない感じがします。

98/12/25

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