星野之宣『妖女伝説 総集編』集英社 1991年

 1991年に発刊された『週間ヤングジャンプ 9/25増刊号』です。いつもはこういった「総集編」の感想文はアップしないのですが,本書だけは特別です。
 というのも,先日,古本屋で本書を手に取るまで,あの名作「月夢」を含む『妖女伝説』のシリーズに「続き」があるとは,ついぞ知らなかったからです。わたしの持っている「ヤングジャンプコミックス版」の『妖女伝説』の2巻,「砂漠の女王」のラストは,たしかにクレオパトラのさらなる転生を匂わせる終わり方をしていましたが,てっきりこれで終わりだと思っていました。
 ところがところが,本書には,その続き,サロメの次の転生,パルミアの女王・ゼノビアのエピソードが収録されているではありませんか! をを! なんたる不覚!! Oh My God!!
 ・・・・だったわけですが,気を取り直して,もとの『妖女伝説』のコミックの発行年を見ると1981年。で,こちらの総集編の方は初出は出ておりませんが,発行は1991年。つまり,旧シリーズとこの新シリーズとの間には,ずいぶんと発表年の開きがあるようです。絵のタッチも少々違います。ですからやはり『妖女伝説』はいったんは終了していたんですね。それが一時的に復活した,と解していいようです。1991年といえば,ちょうどマンガ読みから離れていた時期にもあたりますし・・・。まぁ,いずれにしろ「砂漠の女王」の本当のラストが読めたことはなによりです。
 ところで,『妖女伝説』には,「ヤングジャンプコミック版」のほかに,別の版も出ていたと思うのですが,そちらには,こちらの新シリーズも収録されているんでしょうかね? ご存じの方がおられましたらお教えください。

 さてその「砂漠の女王」でありますが,パルミアの女王・ゼノビアとして転生したクレオパトラは,ふたたびローマ帝国に攻撃を仕掛けます。西暦269年,かつてみずから死を選んだ土地アレクサンドリアを占領,ローマの喉元に刃を突きつけた彼女ですが,新皇帝アウレリアヌスの巧妙な戦略と,おりからの地震のため,敗北を喫します。三度の転生を願う彼女に対し,クレオパトラに「バアの秘法」を施した大神官ソロンの口から恐るべき真実が語られます。それは・・・ということで,物語はクライマックスを迎えるわけです。「おお,なるほど,そう来たか!」というなかなかひねったエンディングで楽しめました。とくに,突然顔を出す中国商人が,こういう風に結びつくとは,驚きです。

 おつぎは,ルネサンス・イタリアを舞台にした「ボルジア家の毒薬」です。チェーザレ・ボルジア,その妹ルクレティア,カテリーナ・スフォルツァ,そしてレオナルド・ダ・ヴィンチといった,塩野七生作品ではお馴染みの面々が登場します。一方で華やかな芸術作品を生みだし,その一方で血で血を洗う陰謀・謀略・抗争が渦巻いたルネサンス時代の二面性を,ルクレティア,レオナルドの愛憎を絡めることで,巧みに描き出しています。ルクレティア・ボルジアというキャラクタは,作家さんのイメージがずいぶん違う人物ですね。それだけミステリアスということなのでしょうが・・・。
 ただ間を置いて連載されたのでしょうか? 途中,前回の解説らしき描写が何度かはさまり,ちょっとテンポがよくないのが残念です。

 「歴史は夜つくられる」は,どうやら『妖女伝説』のシリーズ外の作品のようですが,それでも歴史の裏面に暗躍した,ある有名な女性がメイン・キャラクタとして登場します。ネタばれになるので書きませんが,20世紀初頭に活躍した男女を,ある有名な事件に立ち会わせることで,伝奇的な雰囲気を持つ作品に仕上げています。
 最後の「挽歌」もシリーズ外の作品で,絵のタッチからすると比較的初期の作品のようです。ある意味で『妖女伝説』のプロト・タイプと呼べるかもしれません。南極の観測基地を思わせる施設に突如現れたひとりの女。いったい彼女の正体は・・・というストーリィ。「月夢」と同様,ある馴染み深い民話とSFを融合させた作品です。

98/12/20

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